特集

2020年8月9日放送「ロス・アレルセス国立公園」

氷河と森を生んだアンデスに吹く風

氷河の山の麓に広がる温帯雨林。その手つかずの森には、 ロス・アレルセスを象徴する巨木が生えています。

──ロス・アレルセス国立公園が自然遺産に登録された理由に、貴重な原生林が残っているから、というお話がありました。ここにはどんな森があるのでしょうか?

江夏:アンデスの山奥に広がる温帯雨林の森です。温帯雨林は人間による開発によって減り続けてきた結果、これほどまとまった面積が残っているのは、世界でも5ヶ所ほどしかないそうです。

ロス・アレルセスの森。温帯雨林がこれほどのまとまった面積で残っているのは、世界でも珍しいのです。

──現代では貴重な森なのですね。

江夏:番組では、この森に生えている2種類の巨木を紹介しています。その1つが、樹齢およそ2600年、高さ57mにもなるパタゴニアヒバです。パタゴニアヒバはスペイン語で「アレルセ」といい、「ロス・アレルセス」の名前の由来でもあります。もう1本がナンキョクブナの巨木です。太古の昔、今より南米と近い位置にあった南極にも、この木が生えていたのです。その証拠にナンキョクブナの化石が南極大陸で見つかっています。意外なことに、かつての南極は温暖で、ロス・アレルセスのような森が広がっていたのです。

樹齢およそ2600年のパタゴニアヒバ。高さは20階建のビルほどもあります。

ナンキョクブナの巨木。かつての南極大陸にもこのような森があったと考えられています。

──氷河と豊かな森が隣り合っているなんて、本当に変化に富んだ自然が見られるんですね。どうして、このような自然がこの土地には生まれるのでしょうか?

江夏:それは、雨の多さと風の強さにあります。降水量は年間およそ4000ミリで、日本の平均降水量の倍以上にもなります。標高が高い場所では雪となって積り続け、やがて氷河になります。この土地の降水量が多いのは、太平洋から湿った風が吹いてくるからです。しかも偏西風の通り道に位置しているため、風が非常に強いのです。パタゴニアでは、ときに風速60m以上になることもあります。

──風速60m以上とは凄まじい勢いです。その強い風が氷河や森を生んだとも言えるわけですね。

江夏:強風はパタゴニア地方の名物とも言えるものです。番組では、その風の強さを映像で紹介するのに苦労しました。

暴風に耐えるフラミンゴ。飛びたっても、風が強すぎて前に進めないこともあります。

──確かに風はそれだけでは目に見えないので難しそうですね。

江夏:番組では、強風に流されるフラミンゴや、山を超えた暴風が出現させるUFOのような雲、長い年月の間に風などに削られてできた奇岩といった、風にまつわる映像をお見せします。

山を越えた暴風が生んだUFOのような雲。パタゴニアでは、このような不思議な雲が良く見られます。

ロス・アレルセス国立公園の東にある奇岩。これらも、この地方の気候によって生み出された景色です。

──どれも興味深くて楽しみです。最後に視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

江夏:お話ししたとおり、今回は、風や雨との戦いとも言える撮影でした。限られた晴れ間に、山の頂まで登ったり、空撮をしたりして貴重な映像を納めてきました。真夏の日本でご覧の皆さんに、アンデスの山々と氷河湖の涼しげな絶景をお届けしますので、ぜひお楽しみください。

白銀の山々と入り組んだ氷河湖。複雑な地形が生み出したアンデスの絶景です。

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