特集

2020年8月9日放送「ロス・アレルセス国立公園」

パタゴニアの風が生んだ氷河と湖と森

氷河を抱いた山々、その間にある湖、そして太古の昔に誕生した植物が命をつなぐ原生林。そんな南米アルゼンチンの自然遺産、ロス・アレルセス国立公園を撮影し、数々の絶景をカメラに収めてきた江夏ディレクターに話を伺いました。

崩落する氷河とエメラルド色の湖

アンデスの谷間に点在する無数の美しい湖。そこは、かつて氷河に覆われた土地でした。

──今回のロス・アレルセス国立公園とは、どんな世界遺産なのでしょうか?

江夏ディレクター(以下、江夏):アルゼンチンのパタゴニア地方北部にある自然遺産です。広さはおよそ1900平方キロで、アンデス山脈の美しい氷河湖や、貴重な原生林が評価されて2017年に登録されました。比較的新しい世界遺産で、番組としての撮影は初となります。

──「氷河湖」というのはどういった湖なのでしょうか?

江夏:氷河湖とは、氷河が山を削ってできた谷にある湖です。かつてロス・アレルセスは、すべて氷河に覆われていました。やがて氷河が後退して谷がむき出しになり、そこに雪解け水がたまって氷河湖が誕生しました。ロス・アレルセス国立公園には、いくつもの氷河湖が点在すのが特徴です。

湖の向こうに見えるアンデスの山々。山頂には万年雪が積もっています。

──氷河が後退したということですが、ロス・アレルセス国立公園では実際はどんな氷河を見ることができるのでしょうか?

江夏:氷河は標高1500mより上にあり、残っている場所は限られるのですが、撮影ではその1つにできるだけ近づいて撮影してきました。その氷河の末端付近では、巨大な氷の塊が崩れ落ちることがあるのです。

──崩れ落ちる氷河とはダイナミックですね。

江夏:運よく、高さ数十メートルもの氷が崩落する瞬間をとらえることができました。あまり近づくと危険なため、離れて撮影していたのですが、氷が崩れ落ちるゴーという音が響いてくるのです。

崩落する氷河。標高1500mより高い位置に氷河が残っています。

──貴重な迫力の映像、見逃せませんね。ほかにはどんな見所がありますか?

江夏:氷河湖の景色に注目していただきたいです。さまざまな氷河湖があるのですが、その1つロス・アンティグオ湖は、氷河のすぐ下にあります。この湖は、太陽光が差し込むと水がエメラルド色に輝くのです。その秘密は、氷河が山を削る際にできた細かな岩の粒子にあります。その粒子が氷河湖に大量に流れ込んでいて、光が当たると反射してエメラルド色になるのです。

氷河が見える谷にあるエメラルド色の湖。氷河が山を削った粒子に光が当たることで、この色が生まれます。

──氷河が生んだエメラルド色の湖とは神秘的な光景ですね。

江夏:ロス・アンティグオ湖でもう1つ注目していただきたいのが、湖を囲む崖です。崖の下半分は岩、上半分は森と、ほぼ直線にくっきりと分かれています。これは、かつてはこの境目まで氷河が谷を埋め尽くしていたことを示しています。その後、氷河が後退したため谷がむき出しになり、氷河が運んだ岩や砂利が堆積し水をせき止めている様子が、はっきりと見ることができました。

森と岩にくっきりと分かれた崖。かつては、この境目まで氷河で埋もれていたのです。

──氷河湖の成り立ちが感じられる場所なんですね。

江夏:氷河湖の絶景はほかにもあります。氷河から離れたところにある氷河湖は、岩の粒子が湖底に沈むため、澄んだ青色になります。撮ってきた私自身が吸い込まれそうになるほど美しい映像なので、ぜひご覧になってください。

氷河から離れた位置になると、湖は澄んだ青色になります。氷河湖のもうひとつの絶景です。

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