特集

2020年5月17日放送「屋久島」

雨が降る屋久杉の森と色あざやかな山桜

長い年月を経て出来上がった屋久島の本来の姿。その一方で人間の行いによって生み出された絶景も屋久島にはあるのです。

──さきほど、屋久島の雨の多さの話がありましたが、今回の取材中も雨は降っていたのでしょうか?

江夏:はい。8日間の取材期間中、日が出ていたのは1日半ほどでした。結果として、雨の屋久島の撮影をたっぷりできました。雨が降りしきる森の中を進み、屋久杉の巨木の根元まで行って撮影をしました。また、雲につつまれたような、霞みがかった森も撮れました。こうしたしっとりした風景というのが、実際の屋久島の姿なのです。

雨が当たり前の屋久島での撮影。屋久杉の森の神秘的な映像をお届けします。

──通常の撮影だと晴れが望ましいことが多いかと思いますが、屋久島は逆に雨が普通ということですね。リアルな屋久島の風景、楽しみです。そのほかの見どころを教えてください。

江夏:雨のシーン以外にも、今回撮影した特別な映像があります。その1つが山桜です。島の小杉谷というエリアに、春の一時期に、山桜のピンク、カエデの新緑、杉の深い緑が入り混じった色鮮やかな風景が現れるのです。

──屋久島というと鬱蒼とした森のイメージが強いのですが、桜などのカラフルな風景もあるのですね。

江夏:実はこの小杉谷は、かつては多くの屋久杉が生えていた森でした。丈夫な屋久杉は江戸時代から建材として重宝されてきました。1970年まで伐採基地があった小杉谷の周辺では、屋久杉が伐り尽くされてしまったのです。そこから50年たった今、成長の早い山桜が生えてきて、この風景を生み出しているのです。この森の中には、杉の切り株があちこちにあります。

山桜のピンクが映える森。杉を伐採したあと、50年を経て現在、こうした姿になったのです。

森の中には、伐採された屋久杉の切り株があちこちにあります。

──人間が屋久杉を伐採した結果、誕生したのが、色鮮やかな森とは驚きました。

江夏:ただし100年後には山桜の絶景は見られなくなると言われています。杉が伐採された後、最初に根付いた木が、成長の早い山桜だったのです。今後、成長の遅い種類の木が山桜より大きくなると、日陰では生きられない山桜は枯れてしまうそうです。

──屋久島の自然は、大きさも時間も人間のスケールでは測れない雄大さがありますね。

江夏:そうですね。屋久島の大きな特徴の1つに、気候と植生の多様さがあります。海岸沿いはガジュマルなどの亜熱帯の植物が生えていて、海の中は熱帯魚やウミガメが泳いでいます。標高1000m以下には、照葉樹の原生林が広がっています。標高が上がるにつれて、スギをはじめとする針葉樹林に変わり、1700mを超えると森が無くなります。この高度になると、冬は雪が降ります。このように、屋久島には日本の気候のすべてが凝縮されていると言われています。

日本の気候のすべてが凝縮されているという屋久島。海には熱帯魚が泳ぎ、標高1000mより上には屋久杉の森が広がり、冬山には雪が降ります。

──1つの島の中に、実にさまざまな風景があるのですね。

江夏:森林限界と呼ばれる森があるギリギリの標高には、「白骨樹」と呼ばれる、枯れたように見える屋久杉があちこちに立っています。屋久島の山間部では、しばしば猛烈な風が吹くことがあります。ちょうど撮影中も台風並みの暴風に見舞われました。そんな自然の猛威にさらされ続けた結果、樹皮や枝が剥ぎ取られ、白い骨のような姿になったのです。この白骨樹、枯れ木のように見えますが、葉をつけているものもあるのが驚きでした。

標高1700mの森林限界と呼ばれるあたりに立つ白骨樹。かろうじて葉をつけているものもあります。

──聞けば聞くほど、屋久島の自然の驚異に興味が湧いてきました。放送が楽しみです。最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

江夏:雲霧が立ち込める幻想的な森や、スポンジのように水を含んだ苔、照葉樹の森の中で暮らすヤクシマザルなど、今回は、屋久島のリアルな映像を、びしょ濡れになりながら撮影してきました。縄文杉をはじめ屋久杉はもちろん、巨石や山桜など、見どころたっぷりなので、ぜひご覧ください。

ヤクシマザルは雨の多い気候に適応するため、ニホンザルより毛が長くなっています。ほかにも屋久島の多様な風景をたっぷりお届けします。

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