特集

2020年6月7日放送「屋久島」

雨と岩が生んだ驚きの絶景

今回ご紹介するのは、日本で最初に登録された世界遺産のひとつ「屋久島」。これまでも番組では取り上げられてきた自然遺産ですが、改めて、島の成り立ちにつながる奇岩や、屋久杉をはじめとする様々な植物、多種多様な気候などにスポットを当てます。取材を担当した、江夏ディレクターに話を聞きました。

1万ミリもの雨に削られた丸い巨岩

屋久島の独特な自然と景観は、島の成り立ちと気候の組み合わせによって生まれたものでした。

──番組としてメインで屋久島を取り上げるのは4回目だそうですが、今回は島のどんな魅力に迫っているのでしょうか?

江夏ディレクター(以下、江夏):今回は、屋久杉をはじめとする植物はもちろん、島の巨大な奇岩や特殊な気候などを掘り下げて取り上げています。

──具体的にはどういったところを紹介しているのでしょうか?

江夏:まず屋久島の岩に注目しています。そもそも屋久島は島全体が岩の塊といえるほど、岩だらけなのです。海から一気に急峻な山々がそびえているのが屋久島の地形の特徴で、島の真ん中には1000mを超える峰が連なっています。最も高い宮之浦岳は標高1936mで、九州最高峰です。番組では、山の頂付近で見られる丸まった巨大な岩の風景をお見せします。

海の中から一気に急峻な山がそびえる、独特な地形の屋久島。

──川の下流などではなく、山頂の岩が丸まっているのは意外です。

江夏:屋久島の岩は、花崗岩です。海底で発生したマグマが冷えて固まり、花崗岩となって、地殻変動で隆起してできたのが屋久島です。海底から上昇していくうちに、花崗岩は膨張して割れ目ができ、海上に出た部分は雨によって水が染み込み風化して、脆くなり、丸くなります。中には、丸い巨石が包丁ですっぱり切られたようになっている「トーフ岩」と呼ばれるものもあり、不思議な風景が見られます。花崗岩の変わった地形はほかの世界遺産でも見られますが、こんな風に丸い岩ができるのは、屋久島の気候や花崗岩の成分など、いくつもの要因が重なった結果です。

屋久島の山々の頂上付近にある岩は、侵食されて丸みを帯びています。文字通り、豆腐を切ったようにすっぱり割れた「トーフ岩」などの巨大な奇岩も見られます。

──雨によって巨大な岩が丸く削られるほど、長い年月をかけて出来上がった風景なのですね。

江夏:時間の長さもありますが、屋久島の雨の多さが重要なポイントです。屋久島の山間部では、年間1万ミリも雨が降ることがあり、日本の平均的な降水量の5倍以上にもなります。雨量の多さを示す場所はほかにもあって、「千尋(せんぴろ)の滝」と呼ばれる落差60mの滝がその1つです。この滝は、深い谷にあります。山に降った雨が谷筋に集まり、岩を削ったため、滝を挟み込む谷の斜面は、一枚岩が剥き出しになっているのです。

山の谷間にある「千尋(せんぴろ)の滝」。その横の斜面は、むき出しの一枚岩です。

──斜面が一枚岩とはダイナミックですね。

江夏:屋久島は海岸線にも岩が露出していて、それを空から捉えたシーンも迫力があります。また海の中にも見渡す限りの一枚岩が続いていて、本当に島全体がひとつの岩の塊でできていることを映像で感じられると思います。

屋久島の海岸線にも岩が連なっています。また海の中にも一枚岩が続いていて、島全体が岩でできていることをうかがわせます。

──屋久島というと、3000年も生きると言われる屋久杉が有名ですが、岩も特徴的なのですね。

江夏:その屋久杉が育ったのも、岩と関連しているのです。

──どういったところで屋久杉と岩がつながるのでしょうか?

江夏:島の栄養分の乏しい岩の土地に育った屋久杉は、成長が遅く年輪が密になるのです。さらに樹脂も多いため腐りにくく、普通の杉より長生きになります。

成長が遅いため、年輪が密になり、丈夫で長生きな屋久杉。崖崩れの跡に見える土壌の薄さが、屋久杉が生まれた秘密でした。

──栄養が乏しく岩だらけだと、そもそも植物の生育自体が難しいようにも思いますが、それでも杉が育つことができたのはどうしてでしょうか?

江夏:土壌の少ない環境で屋久杉が成長できた秘密は、苔にあります。雨が多いため、苔が分厚く成長していて、土に代わって水を蓄えるのです。

──岩だらけの土地と豊富な雨が、屋久杉などの独特な自然を生み出しているのですね。

土に代わって屋久杉の成長を支えたのは苔でした。雨量が多いため、苔が育ちやすく、たっぷりと水を蓄えることができたのです。

BACK TO PAGETOP