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2019年7月14日「パーヌルル国立公園」

縞模様の奇岩が連なる オーストラリア最後の秘境

今回ご紹介するのは、自然遺産「パーヌルル国立公園」です。オーストラリア北西部にある大平原を進むと現れたのは、世にも奇妙な岩の山々でした。この秘境を取材してきた柳沢ディレクターに、奇岩とその先に広がる未開の自然についてお話を伺いました。

空撮から顕微鏡まで さまざまな映像で奇岩の謎に迫る

パーヌルル国立公園の中央にあるバングルバングル山脈の南側に連なる縞模様を持ち、丸みを帯びた奇岩群。いったいどうして縞模様なのか、どうやって出来上がったのか。世にも奇妙な地形の秘密に迫ります。

──今回のパーヌルル国立公園とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

柳沢ディレクター(以下、柳沢):パーヌルル国立公園は、オーストラリアの北西部にある、24万ヘクタールの大平原とその中心を南北に走るバングルバングル山脈を含んだ自然遺産です。最近はバングルバングル山脈の南にある、奇岩が連なる珍しい地形で知られています。しかし、この奇岩の存在を知っていたのは、1980年代まで先住民のアボリジニだけでした。

パーヌルル国立公園の中央に位置するバングルバングル山脈。その南側には、岩肌に赤と黒の縞模様を持つ奇岩が連なっています。

──ほんの数十年前まで知られていなかったのはなぜなのでしょうか?

柳沢:このエリアは「オーストラリア最後の秘境」と呼ばれるほど、かつては人が入ることが非常に難しい場所でした。観光スポットとして人気が高まりつつある現在でも、陸路では、舗装されていない荒野を4WDの車で50km以上走行しないとバングルバングル山脈に辿り着けません。また、パーヌルル国立公園には雨季と乾季があり、今回取材をしたのは乾季の真っ只中の6月です。12月から3月の雨季になると、パーヌルル国立公園内は水浸しになり、道路は寸断されるので、取材はおろか立ち入ることも禁止されています。

陸路でバングルバングル山脈へ辿り着くには、未舗装の道を50km以上走行する必要があります。

この地域には乾季と乾季があり、乾季は干上がった川を辿って進むことができますが、雨季は激流となって立ち入ることも禁止されています。

──現代のオーストラリアにそんな場所があるとは驚きです。その秘境の奥にある、珍しい地形とはいったいどのようなものなのでしょうか?

柳沢:バングルバングル山脈の南側には、岩肌に赤と黒の縞模様がくっきりと刻まれた奇岩が連なっているのです。その丸みを帯びた形と縞模様がスズメバチの巣に似ているため、この奇岩は「ビーハイブ(蜂の巣)」などと呼ばれることもあります。今回の取材では、奇岩が連なっている雄大な様子をヘリで空からも撮影してきました。

──蜂の巣のような岩とは実に奇妙ですね。どうしてそのような模様になっているのでしょうか?

柳沢:現地で簡易な顕微鏡を使って観察してみたのですが、この岩山の赤い部分は、砂粒が合わさってできている砂岩で、その砂岩に含まれる鉄分が表面だけ酸化して赤い色になっています。一方、黒い部分は粘土が混ざった地層です。この層は水分を含んでいるので、岩の表面に微生物が繁殖しています。この微生物が黒い縞の元なのです。

番組では、空撮から簡易的な顕微鏡まで駆使して、奇岩の秘密に迫っています。

──この縞模様は表面の色なのですね。

柳沢:はい、表面が削れた部分をみると岩の内側は白いのがわかります。もろい砂岩が侵食や風化により丸い小山になり、表面の色の部分が保護膜のようになってこれ以上の侵食を防いでいるため、このような奇岩が出来上がったのです。

奇岩の表面が削れた部分。岩の内側は白く、崩れやすい砂で出来ていることがわかります

──縞々は、砂と粘土質の層ということですが、どうやってそんな地層になったのでしょうか?

柳沢:3億年以上前、この土地は川の河口だったのです。河口が深いところには、砂と泥が一緒に堆積します。河口が浅くなると、泥は流されて、砂だけが積もります。地殻変動で、数百年単位で河口の深さが変化した結果、交互に積み重なりました。その地層が地上で長い年月を経て、砂だけの層は赤く、泥の粘土質の層は黒くなり、縞模様の岩ができたのです。

──気の遠くなるような長い年月を経て出来上がった地形なのですね。

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