特集

サウンドエンジニア土方裕雄さんの5.1ch サラウンド講座

インタビュー

Q:サラウンド録音ならではの苦労や失敗とは?

サウンドエンジニア土方裕雄さんの5.1ch サラウンド講座

苦労というほどのことではないんですが、やはり高感度なマイクだけに無駄な音を自分から出さないよう、じっとしている事が時には大変かな? 特に密林などでは、両手がふさがっているし、動けないので蚊やその他虫類に噛まれ放題になってしまうんです。大体虫に刺されると、さすがのスタッフもみんな「ギャッ!」と悲鳴を出し始めますからね(笑)。
そうすると、録音どころではなくなってしまうので、毎回撮影の際は頭からかぶるタイプの蚊帳を持ち歩いています。カメラマンの中には網の部分に微弱の電気が通っている蠅たたきを持参してくる方もいるのですが、「バチバチッ」と音がするのも困るので、蚊帳をスタッフ全員分買って、事前に渡したりしています。

あとは、同時録音とは別に音だけを録りたいと思った時、癖で誰にも言わずにふらっと密林の中へ入ってしまう事があるんですよね。やはりバックグラウンドにはめる音というのは静かなシチュエーションが最適ですから、一人でないとできないんです。だから自分の納得いく場所を求めていつの間にか行方不明に…(笑)。
でも、GPSを常に携帯しているし、皆さん毎度の事なので私がいなくなっても「今日はどこまでいったやら…?」という感じで放っておいてくれるんですけどね。GPSも正確なポイントまでは分からないので、時々同じ場所をぐるぐると回ってしまって、なかなか戻れない時もあります(笑)。

Q:サラウンド録音に興味を持ち始めたのは?

サウンドエンジニア土方裕雄さんの5.1ch サラウンド講座

もともと、学生の頃から立体音響に興味があって、サラウンドにすると自然な音響空間が得られるというのは知っていました。
その後世界遺産に携わるようになり、2003年「サガルマータ国立公園」の頃、番組でサラウンド録音にチャレンジしてみたいというお話を当時ディレクターだった河野さんからいただいて、そこから本格的に始めました。
でも最初は単純に本で勉強して取り組んだので、サラウンドというものにすれば全て空間の広がりを得られると思っていました。
ですが実際に録音した音を聞いてみると何かが違う。例えば、試しに組んでみたマイクアレンジではダメではないけれど自分が想定していたより音が録れていないとか。そういう小さなひっかかりをなくすために、自分自身で改良を重ね、時間を見つけては奥多摩などにテストしに出かけたりして、最終的に今の方式に辿り着いたというわけです。それからはようやく自分が納得いく「空間の広がり」を得られるようになりました。今回放送される「セレンゲティ国立公園」は、特にそれを感じた作品です。もちろん構成や映像は言うまでもなく素晴らしいのですが、そこに偶然などが重なり、さらに自分の納得いく音も重なり、見終わった後に「サラウンドもここまで来たんだな…」と思えました。多くの方に見ていただき、この感動を味わっていただきたいですね。