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2019年2月17日「ヒトが作った絶景!世界最大の棚田」

ヒトが作った絶景!世界最大の棚田

「ヒトがつくった絶景」こうに呼ぶのにふさわしい世界遺産があります。今回は、その1つである「紅河ハニ棚田の文化的景観」を中心に、「人と自然が共同」で作りあげた風景を持つ世界遺産の数々をご紹介します。いつもと少し違う今回の「世界遺産」を担当するのは、数多くの世界遺産と向き合ってきた石渡ディレクターです。

少数民族が作り上げた絶景 世界最大の棚田

最初にご紹介する「紅河ハニ棚田の文化的景観」は、中国・雲南省にある文化遺産で、世界最大の棚田を有することで知られています。3000段もの水田が連なる広大な景色は、少数民族ハニ族が長い年月の間、自然と調和して暮らしてきた結果、出来上がったものなのです。

──今回の番組は「ヒトがつくった絶景」というテーマということですが、文化遺産であれば人の手によるものですし、絶景の世界遺産もたくさんあるはずです。一体どういう世界遺産が見られるのでしょうか?

石渡ディレクター(以下、石渡):言葉どおりですとその通りなのですが、今回のテーマをもう少し詳しく説明しますと、次のように言えます。人間はさまざまな場所で、自然や風土を生かし、工夫をしながら生き抜いてきました。そうした営みによって生み出された独特の風景を持つ世界遺産に注目したのが、今回の番組です。

──いつもの放送よりちょっと難しいテーマのような気がします。

石渡:難しいというより、新しい視点で世界遺産をお届けする試みです。番組を特別に難解にしようというつもりはもちろんなく、さまざまな素晴らしい景色をシンプルに楽しんでいただけるようになっています。

──具体的にはどのような世界遺産が登場するのでしょうか?

石渡:今回メインで紹介するのが、「紅河ハニ棚田の文化的景観」です。

──それは、どういった世界遺産なのでしょうか?

石渡:「世界一大きな棚田」とも「天空の棚田」ともいわれる中国の世界遺産で、紅河は雲南省南部の地域を流れる川で、ハニとはそこに暮らす少数民族の名前です。かつてチベットに暮らしていたハニ族が、他の民族との争いを避けてきたとも、牧草地を求めて移動してきたとも言われていますが、1200年ほど前に雲南省の山間部にたどり着いて、棚田を作り出したのが始まりです。

見渡す限り広がるハニ棚田。1000年以上前にここに移り住んだハニ族が長い年月をかけて作り出した絶景です。

──長い歴史を持つ棚田なのですね。「世界一大きな棚田」というと、どれぐらいの規模なのでしょうか?

石渡:東京ドームの面積の約1万倍になるそうです。

──東京ドームも1万倍ともなると、もうちょっと想像がつかないです。

石渡:ひと言で言うと、山の斜面すべて見渡す限り棚田です。チベットから雲南省にたどり着いて山の上に村を作ったハニ族は、そこから徐々に下に田んぼを拓いていきました。その結果、ハニ棚田の上から下までの標高差は500メートルもあり、段数でいうと3000段にもなっています。

──まさに「ヒトがつくった絶景」ですね。

石渡:番組では、その見事な景色をたっぷりお見せします。一方で、棚田で農業を続けているハニ族の人々にも密着してみました。

山の森から湧き出した水が棚田を一年中潤します。稲刈りも水を張ったまま行うのです。

──日本の米作りと、ハニ棚田のものとは違うのでしょうか?

石渡:いろいろな点で違いがあります。まずハニ棚田の大きな特長は、水が一年中張られていることです。日本の田んぼだと稲刈りの前に水を抜きますが、ハニ棚田ではその時期も張ったままです。

──どうして一年中水を張っているのでしょうか?

石渡:水を抜いてしまうと、砂の成分が多い土壌なので乾きやすく、棚田自体が崩れてくるということで、田んぼを維持するために水を張り続けるのです。この地域は、そもそも霧や雨が多い亜熱帯気候で、山の上の保水力のある森が水を蓄え、豊富な清水となって一年中棚田に流れ出す仕組みになっています。ユニークなのが、水の枯れない田んぼを利用して、コイが養殖されている点です。

ハニ族の人々は、田んぼでコイを養殖しています。コイが害虫などを食べてくれるため、農薬に頼らない稲作ができるのです。

──コイの養殖は、食べるためですか?

石渡:食用でもあるのですが、イネの害虫をコイが食べてくれて一石二鳥なのです。ハニ棚田には野生のアヒルもいて害虫を食べてくれるので、それらのおかげで農薬の使用を抑えた農業を行うことができています。

──コイを使って害虫駆除とはすごい知恵ですね。ほかにも日本の稲作と違うところはありますか?

石渡:山の斜面での米作りですから、そもそも日本のように機械化はされていません。刈った稲は、田んぼでそのまま脱穀します。米が入った40キロの袋を、下の田んぼから、上の村まで運ぶといった作業も人力で行なっています。一番下の田んぼから村までは1時間近くかかるので、かなりの重労働です。

ハニ棚田では機械を使わず、脱穀も米の運搬も人力で行います。昔から人の手によって営まれてきた農業なのです。

──やはり平地の田んぼより苦労が多そうですね。

石渡:そうですね。ハニ族は、稲刈りが終わると、すぐに「あぜ直し」をして田んぼに手入れをします。雑草を放置しておくと、棚田が崩れやすくなるのだそうです。さらに、田んぼの土をかき混ぜる「代かき」を牛を使って行い、翌春の田植えに備えるのです。稲刈りが終わり水が張られた時期の棚田は、世界中からその絶景を撮影しようと観光客が集まってくるほどです。そんな棚田の風景とハニ族による自然と調和した農業の様子をぜひご覧ください。

稲刈りが終わると「あぜ直し」、その後には牛を使った土をかき回す「代かき」を行うことで、棚田は維持され続けてきました。