特集

2019年2月17日「ヒトが作った絶景!世界最大の棚田」

ヒトが生きるために絶景を作り 暮らし続けることが絶景を守る

「紅河ハニ棚田の文化的景観」以外にも「ヒトがつくった絶景」の世界遺産はあります。長い年月をかけて、人の暮らしと自然が調和し、生み出された景色をまとめてご紹介します。

──ここまで「紅河ハニ棚田の文化的景観」のお話を伺ってきて、この世界遺産が、自然環境と人が絶妙に組み合わさったものだということがわかってきました。

石渡:番組では、他にも「バンディアガラの断崖」(マリ)や「ハルシュタットの文化的景観」(オーストリア)、「チンクエ・テッレ」(イタリア)、「オマーンの水利システム」(オマーン)といった世界遺産をお見せする予定です。

──一見すると、脈絡のない世界遺産の組み合わせのようにも思えますが……。

石渡:細かく説明すると、世界遺産の登録理由に「土地利用」というものがあるのですが、人と自然が共存する、長い伝統から生まれた文化的な景観を持った世界遺産を選んでいます。つまり、「紅河ハニ棚田の文化的景観」でも見られた「住まい」「農業」「水利用」といった人の営みと自然の調和が取れた絶景を紹介しています。

──自然と「住まい」が組み合わさった世界遺産というと?

石渡:例えば、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」がそうです。冬の雪深い暮らしと共同体である集落が調和した結果、素晴らしい景色が生まれた世界遺産と言えます。

豪雪という気候に耐えることができ、養蚕などの家内工業に適した造りの家屋がいまも残る「白川郷・五箇山の合掌造り集落」

──なるほどです。「農業」は、棚田もそうだと思いますが、他にはどのようなものがあるのでしょうか?

石渡:農業や牧畜業が生み出した世界遺産の1つに、「コースとセヴェンヌの牧畜が生んだ景観」があります。コースは、農耕には向かない石灰岩の荒地のため、牧羊が盛んになりました。セヴェンヌでは、夏になると羊の群れが新芽を求め、村から山の牧草地へ移動するのです。この1000年続く「移牧」が、高い木のない山を作り出し、独特な美しい風景を生みました。他にも「オルチア渓谷」や「コロンビア・コーヒーの文化的景観」なども農業が生み出した景観を持つ世界遺産です。

「コースとセヴェンヌの牧畜が生んだ景観」では、羊たちが新芽を食べ続けた結果、高い木が育たない独特な景色が作り出されました。

「オルチア渓谷」の田園風景は、粘土質の不毛の大地だったこの土地を数百年にわたって土壌改良した結果、出来上がったものなのです。

気候や地形を生かし、コーヒーの一大生育地となったアンデス山脈は、 「コロンビア・コーヒーの文化的景観」として世界遺産に登録されています。

──最後の「水利用」が生み出した景観を持つのは、どんな世界遺産なのでしょうか?

石渡:「オマーンの水利システム」があります。乾燥した土地に効率よく水を配分するための仕組みで、いまも水路として利用され、管理維持されています。砂漠地帯に突如現れるナツメヤシの畑は、まさに「緑のオアシス」で独特で美しい景色です。

2000年以上も前から存在する「オマーンの水利システム」によって、砂漠地帯の村には、国民食であるナツメヤシの畑が作られています。

──どれも人々の暮らしと密接に関係した世界遺産と言えますね。

石渡:そうですね。さきほどお話ししたハニ族のあぜ直しもそうなのですが、今回紹介する世界遺産は、現在も人が生活のベースとして利用し、手を入れ続けることによって維持されているものと言えます。なので、もし人が生活しなくなったら、その世界遺産の価値が損なわれてしまうのです。

──今回のテーマの深さがだんだんわかってきました。「ヒトがつくった絶景」というと、最初は華麗な宮殿や巨大なピラミッドなどを思い浮かべましたが、一方で、名もなき人々が長い時をかけて、さまざまな環境と調和して暮らし続けてきた結果、生み出された独特な風景もある。そうした歴史を感じながら、美しい映像を満喫できるのが今回の「世界遺産」ということですね。

石渡:そうなんです。そのような世界遺産は、さまざまな地域に数多くあります。放送では、それらの中から、視聴者の皆さんを唸らせるような映像を選りすぐってお届けしますので楽しみにしてください。

──世界遺産の新しい見方が1つできたような気がします。世界遺産ファンなら見逃せない放送ですね!