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──今回の世界遺産「チリビケテ国立公園」はどういったものなのでしょうか？

田口ディレクター（以下、田口）：コロンビアの複合遺産で、昨年に登録されました。大きな特徴は、アマゾン奥地の秘境にそびえ立つテプイ（テーブルマウンテン）と、そのテプイの断崖に先史時代から残る岩絵が挙げられます。実は2018年7月の世界遺産登録直後から、撮影の交渉を開始していました。しかし、許可をもらうまでに4度も断られて取材を実現するのに5カ月もかかりました。

──許可を取るのが難しかったのには、どんな理由があったのでしょうか？

田口：理由は大きく2つあります。この国立公園の周辺にはゲリラの拠点がありました。2016年に政府と和平合意したものの、まだ元ゲリラが潜伏している危険があるため、安全な地域を絞るのが難しいというのが理由の1つです。もう1つの理由は、この公園内に住む非接触民、つまり現代文明と接触したことがない人々の保護のためです。この2つの障壁を乗り越えるために、私たちの番組が単なる観光向けの番組ではなく、ユネスコの推薦を受けていることなどを、粘り強く交渉した結果、撮影には国立公園の担当者が同行し、危険地域を避け安全な範囲で行なうことを条件として、やっと許可が下りました。今回のような本格的な撮影は、日本のメディアでは初になります。

──大変貴重な映像ということですね。実際に現地での取材はどうでしたか？

田口：今年（2019年）1月に現地で取材してきました。許可が下りたと言っても、さきほど挙げたような事情で、公園内のアクセスは簡単ではありませんでした。テプイには、近くの街からヘリコプターで頂上へ飛んで移動しました。そこでキャンプを設営して撮影を行ったのです。撮影にあたってさまざまな条件があったのですが、まずテプイ頂上の環境を保護するために、火気厳禁。またゴミや汚物は持ち帰ることが必須でした。植生を傷つけぬよう、岩場を探してキャンプしました。

──かなり厳しい制約があったのですね。

田口：はい。もう1つ、撮影許可の条件がありました。それは、先住民の長老の男性が取材に同行することです。先住民の人々にとってテプイは聖なる山で、彼らの承認が必要なのです。長老は単に同行するだけでなく、そこに立ち入るわれわれのために、撮影の安全を祈願する儀式を行ってくれるなど協力してくれました。

──テプイでは、どのような映像が撮れたのでしょうか？

田口：苦労した甲斐があって、素晴らしい映像が満載です。まずヘリからの迫力ある空撮映像がたっぷり撮れました。奇妙な形をした山々の景色は、まさに「ロストワールド」、空想の世界に迷い込んだかのようです。チリビケテ国立公園のテプイは、13のエリアに点在しているのですが、上空から捉えたユニークな地形の数々は必見です。またテプイ頂上に広がる、水も土も乏しい土地で生きる原始の植物や両生類も見ものです。

──テプイ以外の場所も取材できたのでしょうか？

田口：はい。テプイの下には、密林とそこを流れる川があります。先住民保護区から川を遡って、そうしたジャングル奥深くまで取材してきました。このエリアの撮影は、世界初です。ここで注目していただきたいのは、ワインのような赤い水が流れる川です。

──それは不思議な川ですね。どうしてそんな色なのでしょうか？

田口：森の木々の落ち葉に含まれるタンニンが流れ出たことによって川が赤く染まっているのです。川の流れだけでなく、幅100mもの滝に赤い水が流れる様子もカメラに収めてきました。実に神秘的な映像をご覧いただけます。

──前人未到の絶壁の山々とワインのような赤い水が流れる川とは、ファンタジー映画の舞台のようですね。放送が楽しみです。