特集

石渡ディレクターインタビュー

Q:ヴィクトリアの滝を放送するにあたって

今回は2週に渡り、世界遺産を通して「地球史を体感するシリーズ」というテーマでお送りする予定です。その第1週目となるのが「ヴィクトリアの滝」ですが、世界三大瀑布のひとつと言われてはいるものの、幅が4kmにも渡る南米の「イグアスの滝」と比べると1.7kmと短く、2週目に放送する「グランドキャニオン」と比べると、出来上がった年代も浅い。なので、これと言って数字的には秀でていないのが正直なところ。ですが、地球が刻んだ地形ということで、ここは「滝の化石」という別名を持つほどの場所ですから、地球史を知る上では唯一無二の存在。今回はそこをポイントに見ていただきたいなと思っています。

Q:滝の化石と呼ばれる由縁とは?

地球史を知る

滝と言うと、大体は水が流れ落ちるへりの部分が水の力で徐々に削られ上流部へ後退していくので、形骸(けいがい)が残らないというのが一般的な形。
ですが、ヴィクトリアの滝の場合は、約1億8000万年前の火山活動で噴出した溶岩が固い玄武岩質で、その地盤に後の地殻変動の繰り返しで歪みが入り、そこへ泥土などが積み重なって軟らかい地層部分と固い地層部分とができたんです。ですから、水に削られながら後退する段階で固い地層部分だけが残り、ぐねぐねと蛇行した渓谷のようになっている。
そのため滝の化石と呼ばれているというわけです。一説によると最初に残った部分から現在流れ落ちている部分までは約20〜30万年かけて後退していったんだとか。そういう歴史的事実が見事に形となって残っているというのはまさに「地球の記憶」という感じですよね。

Q:ヴィクトリアの滝を間近で見ていかがでしたか?

現地語でヴィクトリアの滝は「モシ・オア・トゥニャ」と言うそうですが、撮影をした期間と言うのが季節的に一番水量の多い時期で、その名の通りものすごい迫力でした。最高で1000m近く立ち上るダイナミックな水煙は皆さんにぜひ見ていただきたいポイントでもあります。想像がつかないと思いますけど、この時期は毎分50万tの水が流れるそうです。それだけの水が1.7kmという川幅から一気に100m幅の狭い峡谷に落ちていくので、前へ行き切れずに水しぶき、というよりも嵐の中にいるという表現の方が正しいですね(笑)。それくらい水が舞い上がっている状態でした。そのため虹は常に出ていて美しい! 
撮影では午前中、正午、午後と3回に分けて、刻々と変わるその表情や滝の化石となるひだのように曲がりくねった渓谷をヘリコプターから丁寧に撮影しました。下からは、滝に近づいてよりダイナミックな撮影を…! と雨具を着てその上からポンチョをかぶって挑んだんですが、四方八方から舞い上がった水が穴という穴から入ってくるので、すぐに下のTシャツまでずぶ濡れ。まるで嵐の中にいるようで、滝の全貌は全く見えませんでした。そんな状況の中、必死になって撮影したのでいつも以上に終わった後にはドッと疲れが…。カメラマンも「こっち(撮影クルー)側のこの姿って、誰も見てくれないんだよね。」なんて嘆いていました。
でも撮影している時はこんな感じで大変だったんですが、もともとヴィクトリアの滝周辺の年間雨量は500〜600ml程度。それが、上流部が雨期に入る事でザンベジ川の水量が増え、周辺の木々や森、動物たちや人間など多くの生命を支えている。今となって思えば、その事を身を持って体感できたという感じですね。