特集

バチカン市国

日下ディレクターインタビュー

Q:見どころについて

高城プロデューサーがお話してくれたように、今回の番組で一番の筋となるのはミケランジェロとベルニーニです。ミケランジェロについては前回たっぷりと撮影したので、今回はほとんど撮る事ができなかったベルニーニの作品を集中して撮ってきました。バチカンやフィレンツェなど二人の作品は数々ありますが、それぞれの個性を番組で引き出せたらいいですね。特にダヴィデ像はミケランジェロの作品が有名ですが、実はベルニーニも制作していたので、違いを見比べるというのも面白いかもしれません。ミケランジェロは割と静かな作風ですけど、ベルニーニはよりドラマチックというか、バロック美術のピーク時らしい作風が出ているというところで分かりやすいと思います。他にも二人に関連付けていくつか要素を加えますが、とにかく「世界一の美術作品を存分に堪能してください」というのが一番。たぶん30分では収まりきれないくらいのボリュームがもともとあるので、あまり余計な事をせず、テンポよく作品を見せていけたらいいなと思っています。

Q:他に、今回加わる新しい部分はありますか?

やはり、ただ作品を紹介するだけでなく、それぞれにストーリー性を組み込んでみようかと思っています。

バチカン市国

そのひとつは、前回も監修してもらった成城大学の石鍋先生にお会いした際に見せていただいた佐藤仁さんの「ベルニーニのバルダッキーノ」という論文。これが非常に面白かったので、少し織り込ませていただくことを前提に今回は撮影してきました。内容としては、サンピエトロ大聖堂内の聖ペテロのお墓の上に、ものすごく立派なヴァルダッキーノという大天蓋があるんです。ローマ中のブロンズを剥がして作られたと言われているんですが、その装飾の中によく見るとミツバチが施されています。ミツバチは蜜を運んでくるミステリアスな存在の象徴、また蜂の巣から蜜蝋を作ることも出来る貴重な存在。その炎は、周りを明るくするという意味でイエス・キリストと同じようなシンボリックな存在として使われていたそうです。蜜ろう、それを生み出すミツバチはやはり神聖でイエス・キリストとダブらせることができる昆虫だったんですね。今でもイースターの前に行われる徹夜祭では、教皇がろうそくを持って行進し、信者たちがあるタイミングで一斉にろうそくに火を灯し、その明りのみでお祈りをするような時間があるんですよ。

そんな感じで昔から神秘的で神聖な物の象徴として美術作品にも登場してきたミツバチですが、その形はどちらかというと漫画にでてくるような単純な物が主流でした。ですが、このヴァルダッキーノが完成した1600年代初頭に、写実的な描写つまりハチの形がよりリアルになっていったといいます。そこに絡んでくるのが、何とガリレオ・ガリレイです。

ガリレオは1620年頃、ローマにできたリンチェイアカデミーという自然科学を研究するグループの代表的なメンバーとして参加していたそうです。そこでは様々な研究がされていたのですが、ミツバチの家紋を持った教皇が誕生したことで、ハチの研究もされるようになり、そのチームにガリレオは自分が開発した顕微鏡を送ったそうです。その結果、細部まで正確なハチの姿が分かったのです。その絵を教皇と親しかったベルニーニも目にしたのでしょう、それがあのヴァルダッキーノにも反映されたと考えられているそうです。

Q:ガリレオの研究成果は当時の美術界にも影響を及ぼしていたんですね。

今回、番組のメインとなる部分ではないのですが、撮影していて非常に興味深かった部分です。
ガリレオと言うと「それでも地球は動いている」というセリフや異端審問についてはなんとなく知っていましたけど、ものすごく抑圧されて牢屋の隅っこで膝を抱えて座っているようなイメージ(笑)が僕の中では強かったんです。でも、全然認められなかったのかと思いきや、宗教とはあまりぶつからないようなジャンルで考えた顕微鏡などの研究は認められて、バチカンというか法王とは友好的な関係にあったんだなというのが意外でした。やっぱりドラマはそんなに単純じゃないんですね。