特集

バチカン市国

日下ディレクターインタビュー

Q:前回の放送から約7年ぶりとなるバチカンでの撮影はいかがでしたか?

バチカン市国

バチカンは世界一小さな国ですが、世界一大きな美術館でもあります。ひとつひとつの建築物もそれぞれの装飾も本当にすばらしい。それを再認識したという感じでした。

誰もが認める天才・ミケランジェロに匹敵する天才・ベルニーニ。ヴァルダッキーノひとつとっても、クラシカルなキリスト教建築の要素と、バロックらしい躍動感あふれるようなスタイル、そして当時最先端の自然科学がミックスされて作り上げられている。ずっと見ていても飽きない、本当にとても細かな装飾まで美しい作品でした。このテクニックもベルニーニが天才と呼ばれる一つの要素なのですが、さらに彼には人を引っ張っていく力もあったと言われています。
実はサンピエトロ広場もベルニーニがデザインしたのですが、もともと歪な形をしていた広場を楕円形になるよう設計し、周りにたくさんの彫刻を作らせ飾るという自分のイメージ通りに人を動かし、総合的にまとめて完成させる。今で言うところの総合芸術監督やクリエイティブディレクターのような統括力にも長けていたという意味でも、彼はミケランジェロとはまた違った天才と言うべき人物なんだなぁ…と圧倒されてしまいました。

バチカン市国

撮影に関して言うならば、前回は許可が下りるまでが大変で、現地に行ってからは割と希望通りの場所から撮影させてもらうことができたんです。でも、今回は撮影の申請から許可までの時間は前回より時間がかからなかったけど、(それでも他のサイトに比べると厳しいですが)現地での撮影は前回よりさらに厳しく、かなりの制限がありました。ミケランジェロのピエタ像は、彫刻と見学者との間にガラスの仕切りがあるんですけど、前回はガラスの内側から像を撮影する事が出来たのに、今回はガラス越しでないとダメ。他にも撮影ポジションなど前回は上に登って撮らせてもらえたのに今回はNGだったりする場所もありました。なので、前回撮ったミケランジェロ作品の映像は本当に貴重!たぶん二度と撮れないであろう映像が詰まっているんです。

Q:番組をご覧の方へ

今まで100か所近く取材で様々な世界遺産を見て、勉強してきました。その中でも、やはり知れば知るほどにイタリアのルネッサンス、そしてミケランジェロはすごい。

もちろんベルニーニもテクニック面ではきっとミケランジェロに勝る天才。例えば、殴るポーズを表現するとしたら、ベルニーニは「殴る」という動きを分からせるようなリアルを追求した彫刻。対して、ミケランジェロは殴る前の一番力がぐっと溜まった時のポーズを表現する事で、戦う前の高揚しているようなオーラに狙いを定めた彫刻。このようにそれぞれの魅力を感じていただけるよう番組を作っていきたいと思っています。ちょっとマニアックすぎましたか…。(笑)

とにかくテンポよく作品を見ていただきながら、実はガリレオの顕微鏡が美術界の進歩に絡んでいたり、ミケランジェロがデザインした制服が今でも使われたりなど伏線のお話がいくつか出てきます。それらバチカンの中で色々な事柄や天才たちがリンクしあって繋がりあっていくストーリーを楽しんでください。見終わった後に、美術がより面白い物になっていたらうれしいです。