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第32回世界遺産委員会報告

皆さんは、年に1回『世界遺産委員会』という会議があるのをご存知でしたか? 実は7月2日からその第32回世界遺産委員会がカナダのケベックで行われます。 その模様を世界遺産のスタッフが現地からレポートしていきます。 レポートは到着次第、特集ページにアップしていきますのでお楽しみに!

878の世界の至宝

第32回世界遺産委員会報告

世界遺産委員会のIDカードを胸にぶら下げた人たちが朝のケベックシティーを行き交う姿は今日が最後になるはずである。予定では…今日が審議の最終日。ここ数日とは多少違う気分を感じながら、コンベンションセンターのセキュリティゲートを通り抜ける。

先ず、プレスリリースが出る前には書くことが出来なかった昨日のことからお伝えしたい。昨日の午後、新たに世界遺産への登録が決まったのは、自然遺産8件、文化遺産5件の合わせて13件だった。

世界遺産委員会6日めの審議の今日は、昨日持ち越した登録審議から始まった。国境近くの遺跡がどの国に属するのかを巡り議論が交わされたり、或いは委員国の意見がまとまらず、異例の投票に持ち込まれた結果、登録が認められなかったり…。難しい審議も行われ、新たに世界遺産に加えられたのは、文化遺産の2件にとどまった。その後、拡張登録や境界の変更、それに登録事項の修正などの審議が急ピッチで続き、昼過ぎ、足かけ3日に及んだ登録審議がようやく終わった。

結局、今年の世界遺産委員会で新たに世界遺産に登録されたのは、文化遺産19件、自然遺産8件、合わせて27件。世界遺産の総数は878件となった。

27件のうち、ICOMOSやIUCNの勧告が「情報照会」から登録されたのが6件、「登録延期」から登録されたのが2件あった。ICOMOSの勧告通りに登録が決まるのが全体の7割を占める。平泉のように「登録延期」勧告から逆転登録を目指すことの難しさが窺える。

お詫びしなければならないことがある。初めて世界遺産をもつことになった国はパプア・ニューギニア、サンマリノ、サウジアラビア、バヌアツの4カ国。モーリシャスはもともと1件あって、間違いだった。私も疲れていたのだろう。ご容赦頂ければと思う。

登録審議というヤマを越えて、午後の審議は空席が目立つようになった。その中で、カナダの議長が懸命に議事を進めていく。国際的な協力のこと。予算のこと。その他諸々…。固かった議長の表情に笑みがこぼれるようになったのは、最後から2番め、新たな議長の選出という議題になってからだった。そして、夜、すべての審議は終わった。

世界遺産委員会は、明日9日は終日会議報告書の作成に費やされ、10日に締めくくりのセッションとレセプションで幕を閉じる。

私の報告もこれまでとしたい。世界遺産をめぐる熱い議論は、1年後、今度はスペインのセビリアで繰り広げられることになる。

ケベックにて
7月7日
「THE世界遺産」プロデューサー 西野哲史

今年の世界遺産委員会での新規登録は英語表記ながら、以下の通り。

第32回世界遺産委員会報告
文化遺産
  • Preah Vihear Temple (Cambodia)
  • Fujian Tulou (China)
  • Stari Grad Plain (Croatia)
  • Historic Centre of Camagey (Cuba)
  • Fortifications of Vauban (France)
  • Berlin Modernism Housing Estates (Germany)
  • Armenian Monastic Ensembles in Iran (Iran)
  • Baha’i Holy Places in Haifa and Western Galilee (Israel)
  • Mantua and Sabbioneta (Italy)
  • The Mijikenda Kaya Forests (Kenya)
  • Melaka and George Town, historic cities of the Straits of Malacca (Malaysia)
  • Protective town of San Miguel and the Sanctuary of Jess de Nazareno de Atotonilco (Mexico)
  • Le Morne Cultural Landscape (Mauritius)
  • Kuk Early Agricultural Site (Papua New Guinea)
  • San Marino Historic Centre and Mount Titano (San Marino)
  • Archaeological Site of Al-Hijr (Madin Slih) (Saudi Arabia)
  • The Wooden Churches of the Slovak part of Carpathian Mountain Area (Slovakia)
  • Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Cultural Landscape (Switzerland and Italy)
  • Chief Roi Mata's Domain (Vanuatu)
自然遺産
  • Joggins Fossil Cliffs (Canada)
  • Mount Sanqingshan National Park (China)
  • Lagoons of New Caledonia: Reef Diversity and Associated Ecosystems (France)
  • Surtsey (Iceland)
  • Saryarka - Steppe and Lakes of Northern Kazakhstan (Kazakhstan)
  • Monarch Butterfly biosphere Reserve (Mexico)
  • Swiss Tectonic Arena Sardona (Switzerland)
  • Socotra Archipelago (Yemen)
拡大登録
  • Historic centres of Berat and Gjirokastra (Albania)
  • Mountain Railways of India(India)
  • Paleolithic Cave Art of Northern Spain(Spain)
  • The Antonine Wall (United Kingdom)

終わらない登録審議

第32回世界遺産委員会報告

朝、昨日の平泉ショックが抜け切らず、少々重い体と心を引きずりながら、コンベンションセンターに向かう。世界遺産委員会の5日目の審議。昨日に引き続き、今日も世界遺産委員会のハイライトとも言える登録審議が繰り返される。

昨日は平泉を含む7件の文化遺産候補の登録審議が行われ、モーリシャス、サウジアラビア、中国、イランの4件の世界遺産登録が決まった。モーリシャスとサウジアラビアにとっては、初めての世界遺産だ。

今日は、残った35件の審議を行わなければならない。世界遺産委員会はいつも、厳しい時間との闘いの中で、登録の可否を決めることが求められる。午前中の審議で、新たに8件の文化遺産の登録が決まった。そのうち、パプア・ニューギニアとサンマリノは、初めて自国に世界遺産を持つことになった。

もう皆さんもニュースでご存知かもしれないが、推薦候補に対する世界遺産委員会の結論は4つのランクに分かれる。あえて説明の必要のない「登録」。情報を追加して翌年にまた推薦が可能な「情報照会」。推薦理由を変更して現地調査もやり直さなければならず、最短で2年後に推薦し直すことが出来る「登録延期」。原則として再び推薦が出来ない「不登録」。この4つの結果に関係者は一喜一憂するのだ。

登録が決まると、会議場には拍手が湧き、当該国にお礼のスピーチの機会も与えられて、お祝いムードが会議場に溢れる。だが、「情報照会」や「登録延期」などの決定の後は、慌ただしく次の候補の審議に移るだけで、何年もかけてこの場にたどり着いたのに、まさにあっけなく通り過ぎる印象だ。運命の残酷…。しかし、モノは考えようで、再挑戦に向けて対象遺産の研究を深め、保全管理の状況を整えることは、遺産の価値を高めることでもある。決して悪いことではない。

さて、常に緊張の中で進められる審議だが、やっているのは人間である。「登録延期」の決定になぜか間違って拍手が湧き起こったり、会議場中央の大画面に居眠りする人の姿が大写しになってしのび笑いが広がったり…。疲れがさまざまな形をとって現れたりもする。

議長の議事進行に一層力が入った1日だったが、結局、数件の登録審議を翌日に持ち越すことになった。プレスリリース時間の関係もあって、午後の審議の結果は明日まとめてお伝えしたい。

いよいよ、明日が実質審議の最終日。しかし、登録審議以外にも多くの議題が控えている。果たして、スケジュールをこなすことが出来るのか。

ケベックにて
7月7日
「THE世界遺産」プロデューサー 西野哲史