特集

第32回世界遺産委員会報告

皆さんは、年に1回『世界遺産委員会』という会議があるのをご存知でしたか? 実は7月2日からその第32回世界遺産委員会がカナダのケベックで行われます。 その模様を世界遺産のスタッフが現地からレポートしていきます。 レポートは到着次第、特集ページにアップしていきますのでお楽しみに!

雨のケベック

この3日間ケベック市制400年を祝うかのように青空が広がっていたケベックだが、きょうは朝から雨が降っている。でも、きょうも11時には街のあちらこちらの鐘という鐘が打ち鳴らされケベック400年をお祝いした。この鐘はカナダ全土で鳴らされたということだが、初日の審議に入った世界遺産委員会の場はお祝いの鐘を聞こうという空気にはなかった。

さて、世界遺産委員会におけるTBSの存在は極めて異例だ。放送を通じて日本に世界遺産の存在を広めてきたその貢献が認められ、04年に「パートナーシップ」という地位が認められた。TBSは、番組を通じて世界遺産の活動に参加している「一緒の仲間」と受け止められているわけだ。したがって、メディアにも関わらず委員会への出席が特別に認められているが、取材活動ではないので残念ながら議事の内容を報告するわけにはいかない。

ただ、会議の雰囲気を表わすならば「ビジネスライク」だろうか。約200か国が集まる会議だが、実際には委員国である21カ国(今年は日本は委員国ではない)が議論を進め、必要に応じて委員国以外にも発言が認められる。こうした中で、文言一つ、表現一つでも各国がそれぞれ思惑を反映させようと躍起だ。議場外のコーヒーコーナーでも議論や根回しが展開されている。

審議の内容は淡々とビジネスライクだが、国際情勢や各国の立場を反映した駆け引きに興味は尽きない。しかも議論は始まったばかり。注目の新規登録といった議題は、まだまだ先のことだ。

ケベックにて
TBS世界遺産代表団
TBS国際部長 小川潤

世界遺産委員会いよいよ開幕

2日夕方、ケベックにおける第32回世界遺産委員会がいよいよ始まった。開会式に集まったおよそ200の国と地域の人々は、それぞれに抱き合ったり、あいさつのキスを交わしたり、握手を繰り返したり、年に一回の世界遺産家族の「同窓会」を祝っているようだ。

開会式ではカナダのファーストネイション(先住民)による伝統的な「聖なる儀式」から始まった。説明はなかったので正確にはわからないが、お香のようなものに火をつけて、その煙で身を清める、浅草の浅草寺を思い浮かべてもらえばよい。

しかし、世界遺産委員会やUNESCO幹部のあいさつはバラ色ではなかった。851もの世界遺産が存在する今、その普遍的価値をいかに維持するのか。また、これから毎年、新しい登録遺産が増えることによって世界遺産の価値が損なわれはしないか、危機感がひしひしとつたわってきた。

松浦UNESCO事務総長のあいさつでも、イスラエル・エルサレム、ドイツ・ドレスデン、そしてコンゴのビルンガ国立公園の世界遺産としてのステータスが問われていると警鐘を鳴らした。イスラエルは宗教的な対立によって、コンゴは内戦をきっかけに、そしてドレスデンは新しい橋の建設によって世界遺産の価値が問われている。それぞれが人為的な作られた危機と言えるだろう。

こうした訴えに地元カナダから議長を務めるクリスティナ・キャメロン博士が紹介したカナダ先住民族の言い伝えが印象的だった。「この土地は先祖から受け継いだものではない。未来の子供たちから借りているものだ」。正に世界遺産の意義を表す言葉ではないだろうか。

きょうの開会式はお祭り気分でお開きとなった。明日からは審議で缶詰になる毎日だ。

ケベックにて 7月2日
TBS世界遺産代表団
TBS国際部長 小川潤

世界遺産会議まもなく(2日)開幕

カナダ東部にあるケベック市、空港に着陸すると一面まっ平らな土地に小高い丘が見え、その上に小さな街のシルエットが見えてくる。1608年セントローレンス川に沿ったこの高台にサミュエル・ド・シャンプランが砦を築こうと考えたのは、この土地に立った人なら誰もが当然に思うだろう。空港から車で30分、川に面した丘の先端部分およそ1キロ四方を取り囲む城壁の中にケベックの旧市街がある。新フランスと言われたこの地域だけに、まるでパリに来たのかという錯覚に陥るような街並みは、北米にはない独特の美しさと雰囲気を醸し出している。

新しい世界遺産を決めるUNESCOの第32回世界遺産委員会は、ここケベックで7月2日から開催される。04年の中国・蘇州、05年の南ア・ダーバン、06年のリトアニア・ビルニュス、07年のニュージーランド・クライストチャーチと、毎年、大陸を変え、世界遺産に近い都市で行われている。ケベックは蘇州やビルニュス同様、街の美しさと文化的な特徴から、街そのものが世界遺産に指定されている町だ。

ここで開かれることしの総会だが、日本にとっての注目は中尊寺を中心とした「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観」が新たに登録されるかどうかだ。過去14回連続して申請した土地が世界遺産に登録されてきた日本だが、今回の道のりは険しいことが予想される。昨年の石見銀山は、外交努力によってなんとかねじ込んだが、今年も続けてとなるとかなりの力技が求められそうだ。

世界遺産の街ケベックで開かれる世界遺産委員会だが、地元の注目は決して高くない。というのも無理もない。市制400年を祝うお祭りが夏を通して行われているからだ。ポール・マッカートニーやセリーヌ・ディオンのコンサートも予定されるなど、大物タレントが続々乗り込んでくることしのケベックでは、市民が楽しめるわけでもない国際会議へは注目はいまひとつだ。ましてや、あすの開会式は市制400年の最大のお祭りと重なる。

日本にとって注目される国際会議も、ことしのケベックには400年を祝う誕生ケーキのろうそくの一本といった感じで、お祝いに花を添える役割にすぎないのかもしれない。

ケベックにて 7月1日
TBS国際部長 小川潤

世界遺産委員会とは?

世界遺産条約締結国の委員国からなる委員会が、年に1度開催する会議です。登録申請リストから世界遺産リストへの登録を審議したり、危機遺産を審議する他、世界遺産基金の運用について、その他世界遺産条約履行に関する様々な議題が話し合われます。