2019年1月スタート毎週日曜よる9時

グッドジャッジ

vol.1名誉棄損って要するにどういうこと??

グッドワイフをご覧のみなさん、はじめまして。法律監修担当の弁護士の國松です。ここでは、ドラマをより深く楽しんでもらうため、作品の展開に合わせて、実際の法律や裁判例を紹介していきたいと思います。どうぞ最後までよろしくお願いいたします!

さて、第一話は 「名誉棄損」 がテーマになっていましたね。名誉棄損とは 「他人の社会的評価 (名誉) を貶める言動を行うことで、実際にその評価を下げること」 をいいます。名誉棄損が成立した場合は、民事裁判では不法行為として慰謝料を請求されたり、名誉回復措置として、例えば謝罪広告の掲載が命じられることがあります。さらに、あまり知られていませんが、実は立派な犯罪でもあって、3年以下の懲役や罰金刑が定められているんです。

そんな名誉棄損ですが、例えば政治家の汚職などをニュースで報じた場合は、仮にそのニュースによって政治家の社会的評価がどんなに失墜したとしても成立しません。なぜか?ここではまさに 「表現の自由」 が効いてくるわけです。こういった、公共的な事柄に大きく関わってくる情報について、名誉棄損を理由に世に出せないということになると、結果的には力を持った一部の人間の都合のいい情報だけが出回ることになって、私たちは正しい情報をもとに自分の行動を決めることが難しくなってきます。そのために、名誉という個人の権利よりも、大切な情報を世の中に広く知らせるという公の利益を優先させなければいけない場面が出てくるわけです。選挙権を行使する我々国民にとって、政治家の資質に関わる情報は極めて重要です。したがって、上記のようなシチュエーションは、表現の自由を保護すべきケースだと判断されるということです。

一方で、たとえ公共に関する事柄であっても、根も葉もない噂レベルの事実を発信することはさすがに許されません。法的には、その情報が 「真実」 もしくは仮に真実でなかったとしても、「その時は真実であると信じても仕方がなかった」 ということを証明しなければ、名誉棄損は成立してしまうんです。第1話の状況でいえば、名誉棄損だと訴えられた日下部 (武田鉄矢さん) が、「妻が娘を殺害した」 という情報について、それが真実あるいは真実であると信じた正当な根拠 (真実相当性) を裁判で立証しなければ、日下部側が負けてしまうということです。一方で、日下部が逆に訴えた件については、杏子たちの方が、「日下部は根拠もなく適当な情報をバラまく嘘付きジャーナリストだ」 という情報について、それが真実であること、または真実相当性を立証しなければ、杏子側が負けてしまう、という構造になります。

さて、裁判所は日下部の訴えを棄却しましたので、杏子側は 「日下部が嘘付きだ」 という表現が真実であることの立証に見事成功した、ということですね。ところが、杏子側の訴えも棄却されてしまいました。これは、日下部の 「妻が犯人」 という表現についてだけ言えば、一応の根拠があったということを裁判所がギリギリ認めた、という説明になるでしょう。理論的にはあり得る結論ですが、本当にあと一歩 非常に悔しい判決でしたね。

弁護士:國松 崇

元 TBS 社員弁護士。現在は東京リベルテ法律事務所に所属し,主にエンターテインメント分野の取引法務や訴訟対応等を中心に,多くの企業・個人に対し,幅広くリーガルサービスを提供している。また,刑事弁護人としての活動も引き続き精力的に行っている。『 99.9-刑事専門弁護士- シリーズ 』 など,多くの TBS ドラマにおいて,脚本作りや法廷シーンの演出など全体の監修を担当。

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