サンデーモーニング|TBSテレビ

「サンデーモーニング」毎週日曜日あさ8:00~9:54放送、出演:関口宏,橋谷能理子,岸井成格,張本勲,唐橋ユミ,水野真裕美,伊藤友里ほか

新春スペシャル「迷える世界」(1月8日放送)

ウォーラースティン教授 インタビュー(3)

※ 一部端末では動画がうまく再生できない場合がございます

Q.どうしたら次の中期循環が見えてくるのか?

それは人々には、明確には見えないものだ。分析を繰り返して見えてくるものではない。
2つのグループがあって、その間で綱引きが行われているとしよう。1つは現行の制度よりも悪い制度を追求し、もう一方のグループは今よりも良い制度を追求しようとしている。 だが、それぞれのグループも、実は2つに分かれている。どうやって推し進めていくのかという戦略で意見が分かれているのだ。現行の資本主義を、同じくらい問題を抱えた制度に変えたいと考えている人たちの間では、二つの変える方法を巡る対立がある。1つは、自分たちに反対する人達を殴って、とにかく抑圧するという方法。でも、別のやり方を訴えるグループは「そんなやり方は反発が起こるだけだ。うまくだまして、必ずこれから良くなると騙して、変えていこうと言う。つまりグリーンエコノミーだとか、啓発的資本主義だとか、うまくだまそうとするわけだ。

そして、より良い制度に変えていこうと考えているグループも2つに分かれている。(1つは)現在の制度に反対する国際的な運動を盛り上げていこうと、これまでのやり方は、結局、階層的で現行の制度を変えられなかった。(同じ考え方をする仲間が)政権に就いた場合でも変えられなかった。なので並行的に広がった数多くの組織が、話し合い、お互いの意見を受け入れ、許容する形で制度を変えていこうと主張する。

すると、もう一方のグループは、そんなことをやっていても、政権に就く事はできない。所詮、政権の座につかなければ制度は変えられない。もっと垂直的な構造の強力な組織をつくり、多少は階層的な組織の中で新しい制度を模索していくと。

こうなると、2つの可能性だと思ったものが、実は4つの可能性があることになってしまう。これが人々にとっては非常に分かりにくいわけだ。どうしたらいいのか分からなくなる。今、このようなカオス状態の中に我々はいるのだ。制度的にカオスの中にあるだけでなく、思考的にもカオス状態にあるのだ。だから、どのような結果がもたらされるのか分からないのだ。どれくらいの割合の人が、どの方法を考えているなんて誰も分からない。だから、もがくしかない。

ここで「バタフライ効果」を導入してみよう。50だか60年前、あるエンジニアが「バタフライ効果」という効果に気付いた。これは「チョウチョウが、ある世界の一端で羽を羽ばたかせたら、世界の、もう一端では全てが変わる」というものだ。どういうことかというと、スタート地点を数ミリ動かすだけで、その影響は、どんどん進むにつれて増幅するというものだ。つまり、小さなチョウチョウが世界を変えていくのだ。これは、本当のことだと私は思う。我々は、みな小さなチョウチョウなのだ。我々の小さな行動のひとつひとつ、いろいろな時間、異なる場所での行動の積み重ねが、世界の制度に影響していくのだ。

我々ひとりひとりが、良いと思うことを行えば、それが積み重なって何かをもたらすかもしれない。必ずそうかといえば断定はできないが、積み上がって何かをもたらす可能性はある。

私がこの話をすると、皆私に訊くことがある。「あなたは楽観的なのか? それとも悲観的なのか」と。私は「どちらでもない、半々だ」という。私には予想できない。私が予想ができたとして「悪くなる」と予想するより、半々でどう転がるか分からない方がマシだ。その意味では楽観的だが、半分は悲観的だ。水が半分はいったコップをみて、半分がいっぱいとみるか、半分が空っぽとみるかの違いだ。半分も満たされていることを強調するも、半分が空であることを強調するも、どちらでもよいのだ。

少し付け足したい。短期循環の中で、苦しみを最小限にすることに役立つ同盟は良い同盟だ。短期循環が苦しみを最小化することに役立つのであれば誰とでも組むだろう。しかし、それをやっていると制度は変わらない。そこで中期循環の中で考えれば、私は、良い制度にも悪い制度にも進んでくみしたくない。

こう考えると、短期循環の中で誰と組むかを考えるとき、慎重に考えなくてはいけないことに気付く。なぜなら、短期循環の時間枠の中で、こちらのグループと組んだとして、その同盟は短期循環の中では良かったかもしれないが、中期循環には、その人たちと戦うことになるかもしれないからだ。

Q.アメリカの多様性は変化している?

アメリカ社会の多様性は、どういう意味を持っているだろうか?アメリカ社会の中には数多くのいわゆる「少数派」がいた。そして、その少数派は、さまざまな形で権力の座から除外された。除外された少数派は、なんとか権力に手を伸ばそうと苦労を重ねてきた。

過去30から50年間、アメリカではアフリカ系アメリカ人、つまり黒人が力を伸ばそうと頑張って、何と大統領まで誕生した。アメリカ史上初の黒人大統領だ。(オバマ大統領の)父親はケニア出身だ。そして今は、性的マイノリティの現実も受け入れようとしている。ゲイの人たちは、これまで認められなったさまざまな権利を手にしてきた。

ある意味でアメリカは、前よりも多様性に富んでいる。つまり白人、プロテスタントだけに権力が集中しなくなった。現在のアメリカの最高裁判所において、たった一人のプロテスタントもいないのだ。最高裁判所の判事は、カトリックかユダヤ教徒だ。ほんの少し前まで、最高裁判所判事はプロテスタントしかいなかったのに、今では、プロテスタントが1人もいなくなってしまった。そういう見方をすれば、アメリカの多様性は、前よりも広がっているといえる。

だが、一部の人はこの変化に気付き、自分たちが味わっている経済的な苦労を、この「多様性」のせいだと言うようになっている。人種差別が、ここで登場するわけだ。トランプ氏は、この「怒り」の恩恵を受けている。「アメリカを再び偉大にする」という言葉を聞いた時に、この一部の人たちは「自分達のグループを再び偉大にして欲しい、昔のように偉大にしてほしい」と考えるのだ。

特段、新しい考え方ではないのだが。確かにアメリカは多様性に富んでいる。アメリカという社会には遺伝的に「人種差別」的なイデオロギーが奥底に組み込まれているという訳ではない。100年、150年前のように人種だけで絞首刑にするようなことはない。「黒人だから」というだけで、何かを決めつけたりしないが、それでも、(黒人の地位が)上昇しないようにしている。

(少数者も含む)多様性はアメリカの栄光だが、実際のアメリカは、それほど多様性に富んではいない。しかし、多様性は、世界中、あらゆるところで拡大している。抑圧されてきた人たちの下からの圧力によって、上にいる人たちが譲歩して生まれる多様性もある。

<終わり>
»前のページ

»ナイジェル・ファラージ氏のインタビュー

»HOME

Copyright© 1995-2024, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.