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寺田的世陸別視点

第12回2013.08.10

日本人トップバッターは右代啓祐。
日本人初の海外8000点突破に挑戦

寺田的 impressive word
9th AUG.右代啓祐
「経験のテグ、挑戦のロンドン。結果を出すモスクワに」


●「これまでで一番良い状態」(松田副部長)
開幕前日の練習を終えた十種競技の右代啓祐(スズキ浜松AC)が、いつもの低音の声に決意を込めた。
「初めて出場したテグ(世界陸上)は経験するための大会でした。昨年のロンドン五輪は挑戦した大会。モスクワ(世界陸上)は結果を出すための大会になります」

テグ世界陸上の2カ月前に日本人で初めて8000点を突破した右代だが、国際大会で力を出し切るのが難しい、と言われているのが混成競技である。テグは7639点と自己記録に400点以上届かなかった。昨年のロンドンは十種競技48年ぶりの日本選手出場を果たし、7842点だった。

「テグ、ロンドンと記録も上がって来ていますし、今回はベストが出る状態に仕上がっています。8000点は世界大会では当たり前という意識になれていますね」
右代のパーソナルコーチでもある松田克彦陸連混成競技副部長は「これまでで一番良い状態」と話す。

「ロンドン五輪前は練習をやり過ぎましたが、今季はやれることはやってきたので、“こうしなければ”という焦りがない。体の調子を合わせるだけで、自分の体をコントロールできる状態になっています」

今大会に登場する日本選手のトップバッター。そこから2日間で10種目に出ずっぱりとなる。注目種目が目白押しの初日と第2日だが、右代が各種目で好記録を連発すれば日本選手団に勢いがつく。右代の日本記録の内訳と各種目の自己ベストを表にまとめたので、記録をチェックしながら観戦してほしい。

●テグとロンドンの違い
シーズンイン前に右代を取材したとき、テグとロンドンがどう違ったのかを聞いてみた。混成競技の特性がよくわかるコメントなので、少し長くなるが紹介したい。

「テグは完全に雰囲気に飲まれてしまいました。どう自分を落ち着かせたらいいかまったくわからず、気がついたら10種目が終わっていた。何もできなかったことが、収穫といえば収穫です。海外の経験を多く積む必要を感じて、昨年1月にドイツの室内の試合、2月にアジア室内選手権に出場しました。ロンドンでは外国人選手たちにも『オー、ケイスケ』とか『おまえのやり投はグッドだな』とか話しかけてもらえたんです。テグのときのように孤独感はなく、デカスロン(十種競技)チームの一員として試合を進められたことを実感できました。技術的には修正できないところもありましたが、精神的には不安を感じないで楽しく試合ができましたね」

グラウンドにいる時間が最も長い種目である。国内のような感覚で競技をするか、外国人選手たちと接することをストレスと感じながら試合を進めるか。この違いが結果に大きく反映する。

ロンドン五輪後も海外へ積極的に出た。昨年12月には米国のマウントサンアントニオ大学で外国選手と練習を積み、投てき種目で新しい発想を得た。4月の日本選抜和歌山大会では円盤投の自己新をマークし、その効果が現れている。
今年1月には2年連続でドイツの室内競技会に出場。外国人選手から短距離種目のスタートのヒントを得た。

●モスクワを飛躍への大きな一歩に
ただ、走る種目に関しては、今季もまだ結果に現れていない。
右代は高校2年で混成競技を始まる前は、走高跳とやり投の選手だった。跳躍種目と投てき種目を兼ねる珍しいタイプ。だから混成競技が強いということになるのだが、初日の100 mと400 m、そして2日目の110 mHを苦手種目としている。

ロンドン五輪後に走りを改善するために新たなコーチにも師事し、リオ五輪まで長期展望のもと改善をはかっている。だが、6月の日本選手権は100 mが11秒58と、向かい風もあって記録が伸びなかった。110 mHはハードルに脚をぶつけて15秒66。
「動きは悪くない。噛み合わなかっただけ」と右代は悲観していない。実際、400 mが50秒43と自己記録に0.15秒と迫ったことで、方向が間違っていないことを確認できた。

松田副部長は「完全ではありませんが、走る方も良くなってきています」と愛弟子を信頼する。
「右代は不器用なので、新しい技術を覚えるのが(十種競技のトップ選手たちのなかで)一番遅いんです。でも、一度覚えたら崩れない」

走る種目の成果が現れれば、今後も着実な成長が見込める。モスクワの右代は、1種目目の100 mから見逃せない。
ロンドンでは棒高跳で5mまでバーを上げ、場内の注目を一身に浴びた。

「あのときは観衆を味方にすることができました。今回は10種目全てで、自分を応援してもらえるようにしたいですね」
リオ五輪でメダル争いをするのが右代の大きな目標。ロンドンと同様に試合を楽しく進め、そのなかで新しい技術ができれば、リオに向けて大きな一歩を踏み出すことになる。

寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。
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