作品紹介

第二章:清雅 茶の湯・能・香

武家の政権は武力によって打ち立てられても、それを維持する秩序が必要でした。秩序は武力を背景としながらも、社会を組み立てる上に必要なあらゆる分野に及び、芸能もまた例外ではありませんでした。茶の湯は武家の故実・礼法として修むべき教養であり、能は徳川幕府の式楽に位置づけられ、公式行事における重要な演目となり、香は儀礼の贈物と同時に、武家の教養として重視されました。

(作品)
[重要文化財]藤原定家書状(ふじわらていかしょじょう)「山門状(さんもんじょう)」 鎌倉時代13世紀(1/29~2/24展示)

歌人として有名な藤原定家の自筆書状で、建保6年(1218)9月延暦寺と石清水八幡宮との間に起こった争いに関して、山門衆徒が神輿を動座して嗷訴(ごうそ)したことに対する院の評定の結果を知らせた書状。定家の書状として出色であるとともに、史料としても注目される。

(作品)
古瀬戸肩衝茶入(こせとかたつきちゃいれ) 銘 横田(よこた) 大名物(おおめいぶつ) 織田信長・豊臣秀吉・徳川家康所用 室町時代15世紀 (全期間展示)

高さ14㎝にもおよぶ大振りな茶入。銘の由来は明らかではないが、名物古瀬戸茶入として、足利義政、義昭、信長、秀吉と伝来した。天正13年(1584)小牧長久手の戦いで、和議が成立した証として秀吉から家康に贈られた。

(作品)
[重要文化財]古備前水指(こびぜんみずさし) 銘 青海(せいがい) 大名物(おおめいぶつ) 武野紹鴎(たけのじょうおう)所用 室町時代15世紀 (全期間展示)

武野紹鴎が愛用した水差で、家康が所持し、義直以降、尾張徳川家に伝来した。 素朴な桶形で、器形は細部にわたり細やかで整った作行をなし、端正で完成された形姿を示し、整った口造りなどに認められるように明確に水指として製作された作品である。大窯で茶陶の生産が始められた室町時代の代表的な茶の湯道具で、茶道文化史上極めて価値が高い。

(作品)
古銅砧形花生(こどうきぬたかたはないけ) 銘 杵(きね)のをれ 豊臣秀吉・徳川家康所用 元-明時代 14-15世紀 (全期間展示)

石川貞清という武将が家康との碁の勝負に勝ち、秀吉からもらいうけた。貞清は関ヶ原合戦の時、西軍に味方したが、この花入れを家康に贈って死罪を免れたと伝えられる。古銅花生の中でも文様のない作が最上とされる。

(作品)
竹茶杓 古田織部(ふるたおりべ)作 江戸時代 17世紀

面取りの筒に墨で「宗句参 古織部」と書かれており、古田織部(1544~1615)が前田玄以(1539~1602)に贈った茶杓であることが知られる。茶杓は白竹で経年による美しい色艶がある。節裏に虫喰いの跡があり、典型的な織部の茶杓とは趣が少し異なり、利休写しを思わせる作行きである。
※本展では、竹茶杓 銘『泪』は展示されません。徳川美術館にて2013年2月23日(土)~3月3日(日)に特別公開されます。

(作品)
秋の野蒔絵十種香箱(あきののまきえじっしゅこうばこ) 江戸時代18世紀 邦姫(くにひめ)所用 (尾張家八代宗勝(むねかつ)五女) 江戸時代18世紀 (1/2~1/27展示)

二段重の長方形の箱で、総体を梨子地にして桔梗・女郎花(おみなえし)・野菊などの秋草や流水が蒔絵で表わされている。香木を炷くための諸道具や、競技として採点に使用する香札や札筒など、道具一式を納める。尾張家八代宗勝の娘、邦姫は、浅野重晟(しげあきら)に嫁したが、その後まもなく明和4年(1767)9月に没し、この香箱が形見分けとして同年12月に尾張家へ贈られた。

(作品)
[重要文化財]銀香盆飾(ぎんこうぼんかざり) 江戸時代17世紀(全期間展示)

銀製の香盆飾りで、香盆の上には香合・香炉のほか、香木や灰を扱うための火箸・灰押・銀葉挟(ぎんようばさみ)・鶯を入れた香筯(きょうじ)建が載せられ、炷空入(たきからいれ)と香炉で一揃いとする。所用者・由緒は未詳だが、技術的にも寸法や形態でも類似する純金の香盆飾りが、尾張家二代光友(みつとも)夫人千代姫(ちよひめ)の所用品として伝存している。
金銀の道具は、財力の象徴でもあり、将軍や貴人をもてなすため実際に使用された。

(作品)
能面(のうめん) 小面(こおもて) 伝是閑吉満(ぜかんよしみつ)作 江戸時代17世紀(1/29~2/24展示)

年若い女性を代表する面で、「小」は可憐さや雅やかさ、初々しさなどを意味している。額の中央から左右に、二本または三本の毛筋が平行して描かれるのが約束とされる。是閑吉満は、桃山時代から江戸時代初期にかけての面打師で、豊臣秀吉によって「天下一」の称号を許された。

(作品)
紅・白段金霞枝垂桜に扇文唐織(べに・しろだんきんがすみしだれざくらにおうぎもんからおり) 江戸時代19世紀(1/2~1/27展示)

唐織とは、文様を浮織にした絢爛豪華な能装束。紅色が入ったものを紅入(いろいり)といい、若い女性の役に使用する。この装束は、紅と白の段織の地に、金銀糸を交え扇や桜を織り出した、華やかな一領である。

※すべて徳川美術館蔵