特集
アンコール遺跡
─どんな方法なのか楽しみですね。こうして制作された3次元CGデータは、どのように利用されるのか教えてください。


『THE 世界遺産』
上空から見たアンコール・ワット。
カンボジアの内戦直後はアンコール・ワットの周辺にも地雷が残されており、近づくことが難しい場所もありました。
『夢の扉+』
アンコール・ワットの3次元CG。
いったんデータ化して全体を俯瞰することで、建物全体がヒンドゥー教の世界観を示していることがわかりました。
片山:完成したデータは、今後の改修工事などに役立ちます。将来、遺跡の風化や崩壊があったとしても、現状の詳細なデータを保存しておくことで元の状態がわかります。さらには3Dプリンターを使って遺跡の精密なスケールモデルを制作し、風洞実験を行うことで、今後風化しやすい場所を突き止めることもできるのです。
井上:アンコール遺跡は、1970年以降の長い内戦やポルポトによる知識人や職人の大量虐殺、内戦後も遺跡周辺に残された大量の地雷などの影響で、長い間修復されることがありませんでした。そのため、崩れやすく近づくことが難しい場所もあり、スキャン技術によって遺跡を外側から詳細に調べられることのメリットは大きいのです。「後世に残す」という世界遺産本来の目的に、日本の最新CG技術が貢献しています。


『THE 世界遺産』
アンコール・トムの中のバイヨン寺院にある巨大な尊顔。
全部で173もある顔をすべて3次元CG化しました。
『夢の扉+』
3次元CG化された尊顔は、細かなひび割れや石の質感まで再現されています。以前は観音菩薩と思われていましたが、データ化して分類することで新たな発見がありました。
─カンボジアの歴史的な背景が影響している点にも注目したいです。ほかに3次元CGデータの活用方法はありますか?
片山:スキャンそのものの技術やデータの共有も大きな目的のひとつです。池内教授は、スキャンする作業も現地のスタッフと行って技術を伝え、作成したデータは世界中の研究者と共有したいと考えています。より専門的な歴史学の研究家の手にこれらのデータが渡れば、新しい発見があるかもしれませんからね。

『THE 世界遺産』
ベンメリアは、崩壊が進んでしまった遺産です。
今は修復されることなく、自然に取り込まれつつある廃墟としての姿を見ることができます。
井上:池内教授が正確なスキャニングを行ったことによって、遺跡をより詳細に分析することができるようになりました。その結果、これまで観音菩薩ではないかと言われてきたバイヨン寺院の巨大な尊顔が、実はヒンドゥー教の神々を表しているのではないかという新説が生まれたのです。
─日本の研究者の情熱が世界遺産の新たな発見を導き出すという、まさに両番組のコラボレーションならではの内容ですね。
井上:いつもとはひと味違った世界遺産の魅力をお伝えできると
思います。楽しみにしていてください。