特集
地球史を知る
Q:番組の見どころとは?

出発前に地層に詳しい先生に聞いてみたのですが、専門家でも川を下りながら見える地層を正確にどの時代か言い当てるのは非常に難しいそうです。ですから20億年前まで遡る地層をただ順番に紹介しても分かりにくいかもしれません。ですから難しい解説を極力避けて、コロラド川が作りだした地層や地形の姿、つまり、20億年前の地層がねじれをおこして不思議なラインを作りだしていたり、夕日や朝日に照らされた景色だったり、陰の部分が渓谷の両線を浮き出して美しいシルエットを作り出していたりという「地球が作りだした芸術作品」としての見方を押し出していこうと思っています。これらをぜひ楽しんでください。あとはやはり何と言っても!川下りの映像ですね。今回は撮影期間の9割が川下り生活でしたから(笑)。
Q:グランドキャニオンを作りだした川を下ったんですよね。
グランドキャニオンの壮大な峡谷をつくったコロラド川を下るという体験はとても貴重でした。今なお地層を削り続けているコロラド川を下る船旅は、まさに人生に残る体験でした。ボートには船長とアシスタントが一人ずつ。実は僕たち撮影班専用ではなく、他に一般のお客さんも乗船しました。と言ってもガイドさんがいるわけでもなく、立ち寄るポイントも行きあたりばったり。食事は船員が作ってくれるんですが、テントを張ったり、食事用のテーブルや椅子のセッティングは自分たちでやらなくてはいけません。もちろんシャワーやトイレはないので顔や体を洗うのは川、トイレは簡易用を草むらに設置する半ばサバイバルのような1週間でした。
Q:撮影は大変でしたか?

それはもう、想像を超えるハードさでした(笑)。
まずは撮影のためだけの船ではないので、綺麗な景色があって時間かけて撮りたいと思っても、船長が「出発します」と言えば中断して従うしかない。つまり探り探りの撮影だったという精神面での大変さが一つ。もう一つは単純に激流との戦いです。
コロラド川は、今でこそ上流にダムができたので多少水の勢いが弱まったのですが、昔は死者も出るほど流れが激しかったという危険な川でした。それをゴムボートで下るんですから、自分たちが落ちないようにするのはもちろんのこと、機材をどうケアするか対策が必要でした。流れは早さによってレベル1〜10まで分かれていて、もちろん穏やかな場所もあるんですよ、本当に眠くなるくらいに。でも、油断しているとすぐに激流ポイントがやってくる…。実際にこんなことがありました。泊っていたキャンプ地で朝から撮影していてご飯を食べ損ねた時があって…。船が出発すると、その時に仲良くなった年輩の女性の方がアルミホイルで包んだ朝食の載った皿を手渡してくれたのです。それを船に乗りこんでから猛ダッシュで食べようと思ったら、すぐに激流ポイントが!漫画みたいに食べ物が飛び散らかってしまって結局全然食べられませんでした(笑)。
そんな中での撮影ですから、どれだけ大変だったかというのも想像していただけるかと…。あと注目していただきたいのは、2005年の撮影時にも使用したスタジアムレンズという特殊なレンズ。そのレンズを使うと通常のカメラより広い範囲の景色がレンズの中に納まって、地球が丸く見えるような効果があるんです。今回もぜひそのレンズを使って、前回の空撮とは逆に下から上を見上げた様な撮影をしたら絶対に面白い映像が撮れそうだと狙っていたんです。どんな絵が見られるのか僕自身も非常に楽しみだったので、その思いで激流を乗り切ったという感じ。カメラマンもすごい映像を撮ってやろうと、船の穂先部分にスタンバイして、落ちないように僕がカメラマンの腰にしがみついて…。もうお互い必死でしたね(笑) 。
20億年前の話や6500万年前から粛々と景観を作り上げたという地球史のひとつを現地で体感できたというのは仕事といえども非常に貴重な体験。その中で激流にもまれたり、感覚が麻痺するほど広大な自然の中に身を置くと、改めて人間はなんてちっぽけなんだ。なんて感じてしまいました。そんな気持ちも含めて、少しでもグランドキャニオンのすごさが分かりやすく伝わればいいなと思います。美しく、不思議で、そして迫力ある映像がたくさん撮れたので、ぜひ皆さんもボートに乗っているような感覚で楽しんで見てください。