2017年2月28日(火)〜5月28日[国立西洋美術館]

作品紹介

画家を取り巻く人々

かつての師アングルと同様、シャセリオーは優れた肖像画の数々も残しています。《アレクシ・ド・トクヴィル》や《カバリュス嬢の肖像》のような油彩の大作のほか、繊細な素描によって親しい人々の肖像も手がけました。これらの肖像を通して、画家を取り巻いた人々や環境、そして七月王政期から第二共和政期にかけてのパリの様子を浮かび上がらせます。

《カバリュス嬢の肖像》 油彩・カンヴァス 135×98cm 1848年 カンペール美術館
Collection du musée des beaux-arts de Quimper
医師の娘マリー=テレーズ・カバリュスは、総裁政府時代のパリの社交界に君臨した「テルミドールの聖母」テレーズ・カバリュス(タリアン夫人)を祖母に持ち、当時のパリで最も美しい女性に数えられました。ドレスの白からケープの淡いピンク、花束の薄紫まで繊細な色彩のグラデーションが、花で縁取られたモデルの柔らかい表情とあいまって、コローの人物像に通じる叙情を醸し出しています。本作品は二月革命勃発直後のサロンに出品されましたが、画中には、騒乱のパリから隔絶されたノスタルジックで静謐な時間が流れています。モデルの髪や手に配した水仙やパルマ菫の香気は密やかな官能性を伝えつつ、近づく春の気配も教えてくれます。

《アレクシ・ド・トクヴィル》 油彩・カンヴァス 131.5×98.5cm 1850年 ヴェルサイユ宮美術館
Photo©RMN-Grand Palais (Château de Versailles) / Franck Raux / distributed by AMF
本作は『アメリカのデモクラシー』(1835年)をはじめとする著作で知られる歴史家トクヴィルの最も知られた肖像です。トクヴィルとシャセリオーは家族ぐるみのつきあいで、代表作となる会計検査院の壁画の注文を得た背景には彼の尽力があったともいわれます。椅子の背の宝石のように輝く緑を差し色にしつつ、抑えた色調で統一された画面のなかでモデルの知的な精神性が際立っています。

《ドサージュの肖像》 油彩・カンヴァス 99×82cm 1850年 フランス外務省
Photo©davidbordes.com
黒衣に身を包み、超然とした態度でこちらを見る銀髪の男性。
モデルはフランスの外交官として各国を渡り歩き、七月王政期(1830-1848年)には長く外務省の政務長官を務めたエミール・ドサージュ伯爵です。モデルの特徴を生き生きととらえたこの個性的な肖像は、スペインの画家ゴヤの作風も想起させます。

ドミニク・アングル《ジェニー・ドラヴァレット(?)の肖像》 鉛筆 16.1×11.5cm 1817年 国立西洋美術館

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