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BACK NUMBER #593 2017.11.4 O.A.

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プロ野球ドラフトで指名されなかった屈辱 菅野剛士
2017年10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議。今回、高校・大学で活躍し、プロ志望届を出した総数は211人。それに加え、社会人や独立リーグにも多くの有望選手がいた。ドラフトで自分の名前が呼ばれるのか?それは、いわば就職試験の合否が公開で告げられるようなものだ。この日、誰よりも複雑な思いで指名を待つ男がいた。社会人野球、日立製作所・菅野剛士(24)。2年前(2015年)、明治大学の4番バッターとして活躍、ドラフト候補と言われながら、どこからも指名されず人生最大の屈辱を味わった。仲間と共に2度目のドラフトを見守る菅野。果たして自分を指名する球団はあるのか?事前のマスコミ報道は、清宮など高校球児の話題が多く、菅野の名があげられることはなかった。
「プロ野球選手になりたい」菅野は幼い頃から常にそう思っていた。地元、東京・府中の少年野球で活躍し、高校は神奈川県の名門・東海大相模へ進学。甲子園では小柄ながらホームランを放ち、パンチのある打撃でチームの全国制覇に大きく貢献した。そして、明治大学に進むと、走攻守、3拍子揃った選手に成長。通算2塁打の六大学記録打ち立てるなど、菅野は野球のエリートコースを歩む中で、プロも注目する大学球界屈指の選手になった。そして迎えた2015年のドラフト会議。この年、プロ志望届を出した大学生は80名。明治大学からは菅野を含む4名がプロ入りを希望していた。中でも菅野と同じ外野手・髙山俊は、六大学通算安打記録を48年ぶりに塗り替えたバッティングが高く評価され、上位指名が予想されていた。身長190cm、大型の左投手の上原健太。さらにキャプテンを務めた捕手の坂本誠志郎は、攻守の安定感でプロのスカウトに注目されていた。そして菅野は「ミスター2塁打」と呼ばれ、複数の球団がリストアップ。2017年のアマチュア選手の中で1番チャンスに強いバッター。菅野もプロ入りへ自信を持っていたという。午後5時前、指名が予想される4人の選手が監督、部長と共に集まった。期待と不安の中、各球団の指名を待つ。菅野と同じ外野手の髙山は、阪神とヤクルトの2球団が1位指名。抽選の結果、阪神に決まった。そして投手の上原も北海道日本ハムが1位指名。4人のうち2人のチームが決まった。さらに、捕手・坂本を阪神が2位で指名。3人が決まった。残るは菅野ただ1人となった。その後も各球団の指名は続いたが、菅野の名前は出てこない。会見場は次第に異様な空気に包まれ始めた。明治の監督として多くのプロ野球選手を輩出してきた善波監督にとって、1人だけ指名を待ち続ける状況は初めてのことだった。そして、誰よりも不安と苦痛を感じていたのは、待ち続ける菅野本人だった。しかし、菅野の名前は呼ばれないまま、すべての指名が終わった。屈辱の運命が決まったその時、菅野のもとに真っ先に駆け寄ったのは善波監督だった。教え子の肩を抱き、こんな言葉をかけたという。
「見返してやろう」
この悔しさを何としても晴らす。幼い頃から描き続けたプロへの道を諦めることなど出来なかった。そんな思いで社会人野球、日立製作所の誘いを受け入社。再びプロを目指す戦いを決意した。現在の制度では、大学卒業時に指名されなかった選手が社会人野球に指名されなかった選手が社会人野球に進んだ場合、再び指名されるのは早くて2年後。その間に何を成すべきか?菅野は自分に足りなかったことに真剣に向き合おうとしていた。身長171cm、体重82kgの体格はプロを目指す選手としては小柄。バッティングには自信があったが、守備面や走塁面に、もの足りない面があると自己分析し、全てのスキルの徹底的なレベルアップに取り組んだ。「今度こそ指名を勝ち取りたい」その一心だった。すると菅野はチーム内の競争を勝ち抜き、1年目から主力に。2016年7月の都市対抗では、ルーキーにも関わらず、4番ライトを任され、勝負強いバッティングでチームを牽引。創部100年の節目に日立製作所を過去最高の準優勝に導いた。この活躍で菅野は一皮むけた。2年目の2017年は、アジア選手権日本代表に選ばれ、そこでもレベルの高い打撃を見せる。菅野は実績を積み上げ、プロ野球選手への段階をしっかりと登っていた。2年前の屈辱を忘れることなどできない。しかし、その屈辱こそが菅野を突き動かしていた。
そして2017年10月。菅野に再び運命の時が近づいていた。今回のドラフトは、高校生のビッグネーム・清宮幸太郎を何球団が指名するのかが注目された。他にも上位指名が噂される選手はいたが、菅野の名前は、どのスポーツ紙も取り上げていなかった。果たして菅野は指名されるのか?チームメイトと共に固唾を飲んでその時を待つ。開始から1時間が経過。2巡名に入ると菅野の表情が変わり始めた。オリックスが指名したのは同僚の鈴木康平投手。その喜びを仲間が祝福する。そんな姿を見ながら、菅野の脳裏に浮かんだのは2年目の悪夢。またしても自分だけが…。そして開始から1時間半。3巡目が終わっても菅野の名前は呼ばれない。しかし、4巡目の指名が始まった、その時だった。千葉ロッテが菅野を指名。指名漏れという屈辱から2年。ついに幼い頃からの夢が叶った。菅野はその重みを噛みしめていた。
プロの第一線で今活躍する選手にも、ドラフトで菅野と同じ悔しさを味わった選手は少なくない。夢を諦めず、掴んだ男がどんな輝きを見せるのか?楽しみだ。
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