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BACK NUMBER #579 2017.7.22 O.A.

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女子マラソン界に彗星のごとく現れた2人のランナーに密着
かつては日本のお家芸とまで呼ばれた女子マラソン。1992年のバルセロナ五輪から4大会連続でメダルを獲得。まさに黄金時代を築いた。しかし近年、アフリカ勢が台頭。日本はメダル争いすら厳しい状況が続いている。そんな女子マラソン界に2人の新星が現れた。腕を下げほとんど振らない忍者走りという独特の走りをみせる安藤友香と清田真央。共に23歳。常識破りの走りで、女子マラソン界の救世主となれるのか。ライバルとしても意識し合う2人の強さの秘密に迫る。
世界陸上まで4ヵ月と迫った2017年4月、安藤と清田は舞台となるロンドンで、視察を兼ねた合宿を行っていた。2人が所属するチーム・スズキ浜松ACには、女子マラソンの選手は他にいない。そのため、練習は常に一緒。安藤と清田を日本代表に育てた里内正幸コーチは、2人の性格は対照的だという。ウサギの安藤とカメの清田。天才型と努力型。今は同じチームに所属しているが2人の因縁は高校時代に逆上る。
安藤は、陸上界の名門、愛知・豊川高校で長距離の絶対的エースとして君臨し、キャプテンを務めた3年生の時には、全国高校駅伝で母校を日本一に導いた。一方清田は、そんな安藤の背中を常に追い続けていた。ライバル校・中京大中京高校の選手として幾度となく同じレースで顔を合わせた2人。清田にとって安藤は憧れの存在だった。少しでも近づきたい。そんな思いで人一倍努力したが、安藤との差はどうしても埋まらなかった。高校を卒業すると、安藤は有力選手として大手スポーツメーカーのチームへ。清田はスズキ浜松ACへと進んだ。そして2人の運命はここから大きく動き始める。高校時代、圧倒的な力を見せてきた安藤が、社会人になって故障に悩まされ続けた。それにより練習不足が重なり、レースでスタミナが続かず失速。思うような結果が残せなくなった。すると、出場機会も激減。2013年、19歳の時にチームを移籍したが、約1年後にそのチームが廃部となり、安藤は走るフィールドさえ失いかけた。一方清田は、着実にステップアップしていた。2013年の東日本女子駅伝でアンカーを任されると、8位から4人をごぼう抜き。4位でフィニッシュし区間賞に輝いた。ウサギの背中を見続けてきたカメは、この時ついに追い越した。そして2014年、くすぶり続ける安藤に救いの手が。差し伸べたのは、なんと清田が所属するチームの里内コーチだった。安藤の才能を高く評価したのはもちろん、清田と刺激し合うことで、本来の力が発揮できると考えての獲得だったという。高校卒業から5年、奇しくも同じチームになった2人。そんな2人に対し里内コーチは或る計画を考えていた。フルマラソンへの挑戦。しかしそのためには、抜本的な改革が必要だった。里内コーチが取り組んだのは2人のランニングフォームを変えること。2人の腕の振り方がブレーキになっている。そこで指導したのは、陸上界の常識を覆す走り方。なんと腕を振らずに2人を走らせた。高橋尚子や野口みずきはもちろん、これまでどんなマラソンランナーも腕を振り、推進力をつけて走るのが常識だった。しかし体幹が弱かった安藤と清田は、腕を振ることで、かえって体の軸がぶれフォームが安定しなかった。里内がまず取り組んだのは、体幹の強化。上半身と下半身をつなぐ筋肉を鍛え、体の軸を安定させる。さらに実際の走りでは腕をほとんど振らず、体のブレを抑えるフォームに改造。その見た目が、音もなく走る忍者を思わせることから、忍者走りと呼ばれるようなった。この忍者走りには、転向して間もない2人がマラソンで勝つための或る狙いが秘められているという。実際レースでは、スタミナで勝る外国人選手に終盤でスパートをかけられ、日本人選手は一気に離され敗れてしまうことが少なくない。体力の消耗を防ぎ、後半に温存する。腕を振らないランニングフォームには、そんな狙いもあった。効果は1年後、鮮やかに現れた。2人とも上位入賞、自己記録更新を繰り返し2016年、清田が一足先にフルマラソンデビューを果たすと4位入賞。しっかりと結果を残した。
2017年3月の名古屋ウィメンズマラソン。ロンドン世界陸上への最終選考レースだった。スタート前、初マラソンである安藤に注目するマスコミはいなかった。一方清田は、2016年のこの大会で入賞していたため、活躍が期待されていた。他にも海外で優勝経験を持つ加藤麻美、10代から豊富なマラソン歴を誇る岩田玲亜などの有力選手が出場。優勝候補はリオ五輪・銀メダリスト、バーレーンのキルワ。初マラソンの安藤は全くのノーマーク。そんな下馬評の下、レースは始まった。序盤、キルワが早くも先頭に立つと清田と安藤も食らいつく。9キロ地点でペースメーカーを除き、キルワ、安藤、清田が並ぶ。しかし中盤19キロを過ぎると予想より早いペースアップに清田が遅れはじめた。21キロ地点でペースメーカーが離脱すると、安藤とキルワの一騎討ちに。そして30キロを過ぎ、レースはスタミナがものをいう終盤に突入。すると食らいつく安藤。一度はどん底に落ちた天才ランナーが、フォーム改革で銀メダリストに互角の勝負を挑んでいた。清田も必死に3位をキープ。安藤は最後まで諦めず2時間21分36秒でゴール。その記録は初マラソンの日本女子最高記録。忍者走りが世界に通用することを見事に証明した。清田も2時間23分47秒の好タイムでフィニッシュ。3位を死守し世界陸上の切符を手にした。
高校時代からの抜きつ抜かれつのライバルが世界に挑む。ウサギの安藤とカメの清田。共に23歳、日本女子マラソン界の救世主がロンドンでどんな走りを見せるのか?楽しみでならない。
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