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BACK NUMBER #573 2017.6.3 O.A.

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騎手・福永祐一 日本ダービー激走の舞台裏
2017年5月27日、日本ダービー当日。競馬界最高峰の戦いを一目見ようと、東京競馬場には、11万人を超すファンが押し寄せ、早朝から異様な熱気に包まれた。騎手にとって、出場するだけで栄誉となる夢舞台に15年連続18回目の出場を果たした福永祐一(40)。現役として歴代5位の通算1973勝(6月1日現在 JRA通算)。国内外合わせ25回もGIを制覇した、日本屈指のジョッキーだ。しかしダービーに限っては、過去17戦全敗。20年近く、苦渋を味わい続けて来た。悲願のダービー制覇へ。そのため福永が取り組んだのは、日本競馬界では前例のないトレーニングだった。そして初めて明かした、かつての天才ジョッキー、父・洋一との約束。迎えた大一番。待っていた結果とは?
1976年、福永は滋賀県に生まれた。父は天才と呼ばれた伝説のジョッキー・福永洋一。1970年代、神業と称えられたその騎乗技術で、洋一は9年連続最多勝利をマーク。しかし突然、悲劇が襲いかかる。30歳の時、レース中に落馬し頭を強打。命こそ取り留めたものの、下半身不随、さらに会話もままならない状態となった。現在も車いすでの生活が続いている。事故の時、まだ2歳だった福永に、父の現役時代の記憶はない。天才ジョッキーと呼ばれた洋一だが、ダービーは1度も勝っていない。そんな父の無念を知った息子はいつしかこう思うようになった。
「いつか父の夢、ダービー制覇を叶えてみせる」
そんな思いを胸に秘め、福永は19歳で騎手デビュー。あの天才の息子はどんなレースを見せるのか?大注目の中、迎えたデビュー戦。なんと初騎乗・初勝利。その後も勝利を重ね、デビュー4年目には初のGI制覇。以降、毎年のようにGIレースを制し、通算勝利数も1900勝を突破。日本屈指のトップジョッキーへと成長した。その成績を年度別に見てみると2010年を境に、急上昇しているのがわかる。この年から7年連続で100勝以上、2011年と2013年には年間最多勝利をマーク。この急成長の影に何があったのか?その驚きの理由が今回の取材で初めて明らかとなった。それは日本競馬界で初めて専属コーチをつけたこと。その様子を撮影することが特別に許可された。指導するのは小野雄次コーチ(53)。彼は、障害馬術・日本代表のアドバイザー、さらに海外の競馬騎手の動作解析に20年以上取り組んできた日本初の競馬レーシング・アドバイザーだ。そんな小野コーチと2010年から取り組んできたのが、騎乗フォームを土台から作り替えること。馬により大きく首を振らせ、歩幅を伸ばすのだという。これは、海外の一流ジョッキーの動きを小野が分析し見出した騎乗法。以前の騎乗フォームでは、腰が引け、力が伝わらず、その結果、馬の首があまり動かないまま走らせていた。ところが、重心を前に置き、力を十分に伝える乗り方に変えると、手で動かしてないにも関わらず、馬の首が大きく動く。変更前後を比べるとその差は歴然。日本の競馬界では「人馬一体」という言葉に象徴されるように馬の動きを邪魔しない騎乗が常識だった。それを覆す新たな試みに、福永も最初は戸惑ったという。高度な技術に加え、この事自体、あまり知られておらず、この騎乗法が出来るジョッキーは、今の日本には、ほとんどいない。さらに小野コーチは、福永の胸を熱くする大発見もしていた。40年前の父の映像。確かに馬の前方にしがみつき、大きく首を振らせている。奇しくも父の技術を追いかけていた息子。このフォームを自分のものにした事で、年間100勝以上挙げるジョッキーになれた。福永はこの事に運命を感じていた。さらに福永はレース前日に驚くべき準備を行っていた。それはデータを駆使したシミュレーション。まず、騎乗する馬の過去のレースを全て映像で確認。1時間以上かけて馬の特徴やクセを目に焼き付ける。そうした上で競馬新聞やスマートフォンを駆使し、同じレースに出走する馬とジョッキーのデータを集める。その際福永が何より注目するデータが調教時の馬のタイム。記者の予想には目もくれず、早い調教タイムをマークしている馬をひたすらチェック。数字との格闘だ。さらにデータに基づいてライバルを絞り、ここからレース展開を綿密に組み立てる。これはデビュー以来、レースの大小に関わらず、1度も欠かしたことがない。そして実は父もデータに人一倍こだわっていた。息子は、父が歩いた道を知らず知らずのうちに辿っていた。
2017年のダービー前、福永にビッグチャンスが訪れた。あのディープインパクトを父に持つ、ダービー馬の有力候補・カデナの騎乗依頼が舞い込んだ。そして、ダービーの2か月前、GII弥生賞。父譲りの豪快な末脚を見せ見事1着。福永のダービー初制覇への期待も大きく膨らんだ。そして迎えた日本ダービー当日。11万を超す観客が詰めかける中、親子二代の悲願、ダービー制覇を胸に福永祐一が姿を現した。大本命不在の2017年のダービーは混戦が予想され、福永騎乗のカデナは8番人気。レース前、馬上で笑顔を見せるなど、福永は落ち着きを見せていた。いよいよ18度目となる決戦の舞台へ。この時福永はスタートをしっかり決め、前方集団につけ、最後の直線で一気に勝負という作戦を立てていた。ところが、スタートでカデナがわずかにバランスを崩してしまう。すぐに立て直したものの、当初の思惑とは違う、後方3番手からのレースになってしまった。さらに誤算が。この日のレースは、ここ20年で最も遅い超スローペース。その流れに捕まってしまい、前へ出るきっかけを逸した。残り600mを切ってもまだ最後尾。最後の直線に全てをかける。ついに第4コーナーを回った。ムチを入れ、勝負に出る福永。しかし必死の追い上げも届かない。結局、福永騎乗のカデナは11着に終わった。親子の悲願、ダービー制覇は18回目の2017年も叶わなかった。
天才ジョッキーの血を受け継ぐ男、福永祐一。宿命と真っ向から向き合い、親子二代の悲願、ダービー制覇を果たすその日を心待ちにしている。
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