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BACK NUMBER #568 2017.4.29 O.A.

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プロ野球選手のセカンドキャリア
かつて日本シリーズで栄光の胴上げ投手になった男は3人の幼い子どもを抱えた中、34歳で戦力外通告を受けた。男が選んだ道は元プロ野球選手としては異例の挑戦だった。そして、ドラフト1位でプロ入りし、エース候補と呼ばれた男は、全く活躍出来ないままクビを切られ、29歳で社会に放り出された。戦力外通告から半年、セカンドキャリアに奮闘する男たちを追った。
【伊藤義弘】
千葉県浦安市。ある小学校で子どもたちが野球の練習をしている様子を見守る1人の男。元千葉ロッテマリーンズ投手、伊藤義弘(34)。
2007年、ドラフト4位でロッテに入団した伊藤は、このとき25歳。大学・社会人を経た、この年の最年長のルーキーだった。1年目から中継ぎでフル回転。3年目には日本シリーズで登板し、栄光の胴上げ投手になった。しかしその翌年、試合中に大けがを負い、その後は本来のピッチングを取り戻せないまま、プロ生活9年で現役を終えた。このとき伊藤は34歳。妻と子どもたちを養うため、本来ならすぐにでも働かなければならなかった。しかし伊藤が始めたのは受験勉強。実は伊藤には夢があった。それは教員免許を取り、学校の先生になること。それは20年以上すべてをかけて取り組んだ野球とは別のもう1つの夢だった。野球に未練がないことは戦力外通告を受けた直後にも言っていた。伊藤が目指すのは、日本体育大学の大学院。体育教師の採用実績が高い。2016年、受験者64名のうち合格は42名。3人に1人は不合格になっている。2016年11月に決断したため、2月下旬の試験日まで3か月しかなかった。絶対に受からなくてはならない。1日8時間の猛勉強の日々が続いた。伊藤は一回り以上若いライバルたちと共に大学院の受験に挑戦。2月28日合格通知を受け取った。しかし教員免許取得までは最短3年。学費は300万円近くかかる。3人の幼い子どもを抱えながらの学生生活に余裕など全くない。伊藤にとって1年前には想像すら出来なかった新生活が始まった。大学までは1時間以上かけ電車通学。1単位でも無駄には出来ない。そんな覚悟で伊藤は学生生活を送っている。大学から帰った後は地元の子どもたちのためのスポーツ教室を開いている。将来、体育教師になった時のための経験を積んでおきたい、そんな思いで始めた。
【巽真悟】
東京・亀戸、午後9時。人込みの中、家路につくこの男も今年から新たな人生を歩み始めた。元福岡ソフトバンクホークス投手・巽真悟(30)。立ち寄ったのはハンバーガーショップ。体が資本と気を使っていた現役時代とは一転、今は外食が増えたという。亀戸には2017年1月に福岡から引っ越してきた。部屋は10畳の1K、家賃は9万円。福岡時代に暮らしていたマンションは2部屋あったが、今はこの部屋で1人暮らし。車も手放した。かつてドラフト1位のエース候補だった男は意外な職に就いていた。巽のセカンドキャリアとは?
最速151キロを誇る、大学球界きっての速球派投手だった。さらに鋭く曲がるスライダーを武器に三振を量産。1試合23奪三振という途轍もない記録もマークした。将来、球界を背負って立つ逸材として2008年のドラフト会議でソフトバンクから1位指名を受けた。ライバルは既にプロで活躍していた同い年の2人の投手だった。しかし、プロの壁は余りにも高かった。自信を持って投げ込んだ球が、いとも簡単に打ち返された。レベルの違いに巽は戸惑ったという。3年目からは中継ぎに転向したが、そこでも結果は出せなかった。打たれると弱気になり、さらに痛打される。そしてドラフト1位の期待に、全く応えられないままプロ8年目の2016年、29歳でクビになった。このまま終わりたくない。そんな思いで巽は、12球団合同トライアウトを受験。そこで圧巻のピッチングを見せる。参加者最速となる148キロのストレートを見せ、スカウト陣をどよめかせた。この結果に、「ヤクルトが獲得」という新聞記事も出た。しかし現実は違っていた。結局、巽のもとに、プロ野球界からのオファーはなく、野球をきっぱりと諦め新たな道に進むと決めた。
2017年4月。東京・丸の内に新たな職場へと向かう巽がいた。そこは全国100か所以上の事業所を持つ人材派遣会社・株式会社エイジェック。2017年1月、巽は正社員として採用された。この会社は派遣事業で広げた企業とのつながりを活用し、アスリートのセカンドキャリアへの支援を2年前から始めている。配属はスポーツ総合事業部。入社1年目の今はスポーツイベントの現場でアルバイトの統括をしている。この日巽が向かったのは、現役時代に何度も訪れたことのある千葉ロッテ、ZOZOマリンスタジアム。実はここの球場スタッフは、巽の会社からも派遣されており、アルバイトたちへの仕事の説明や勤務管理を行う。将来の目標は、アスリートのセカンドキャリアに関する事業への参加をすること。会社の業務の流れを少しでも早く覚えるため、今は現場で下積みをしている。4月18日、マリンスタジアムでは、巽の古巣・ソフトバンクとの試合が組まれた。2016年までお世話になった仲間たちに現状を報告。決意を新たに巽は第2の人生を歩んでいく。
元プロ野球選手のセカンドキャリア。様々な分野に果敢に飛び出した彼らの再び輝く姿を期待したい。
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