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BACK NUMBER #563 2017.3.25 O.A.

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アイスホッケー女子日本 平昌五輪を目指す熾烈な戦い
東京都・西東京市。終電間際の夜11時過ぎ、家路を急ぐ1人の女性がいた。手にはスティック、背中には大きなリュック。彼女はアイスホッケー女子日本代表・足立友里恵(31)。身長155cmとチームで最も小さいが闘志あふれるプレーで、ソチ五輪でもチームを牽引。長年トップに君臨する日本女子アイスホッケーのスター選手。しかし、そのため帰宅は常に深夜。そんな足立を支えているのが夫の拓史さん。現在、早稲田大学の大学院でスポーツ科学を研究。博士号の取得を目指し勉強中だ。二人は早稲田の同級生。同じスポーツ科学部で学び、大学生の頃からお似合いのカップルだった。そして10年の交際を経て2015年結婚。拓史さんは、多忙な研究生活の傍ら五輪を目指す妻をサポートしている。そんな夫のサポートを受けながら、足立は幼い頃からの夢を叶えるためアイスホッケーに人生を捧げてきた。北海道出身の足立は、兄の影響で小学生の頃からアイスホッケーを始めた。そして6年生の時、長野五輪の中継を見て「自分もいつかこの舞台に立ちたい」と決意した。高校2年で日本代表に選ばれ、卒業すると早稲田に進学。上京を機に多くの代表選手を輩出している名門クラブチーム、西武プリンセス・ラビッツに大学生のまま所属した。大学を卒業するとクラブと同じ系列のプリンスホテルに就職。2007年の世界選手権では6得点をあげ、得点王にも輝いた。そんな足立の1日を追った4年前(2013年)の映像がある。出社は朝8時45分。夕方5時までの勤務を終えると夜9時からクラブチームの練習へ。FW足立の最大の武器は、抜群のセンスを誇るパスワーク。ゴール前からパックを追い、そのまま回転してパスを出す。また、攻撃だけでなく、粘り強いディフェンスでもチームに貢献。さらにキャプテンでもある足立は、技術面だけでなく精神面でもチームを一つにまとめる。そんな過酷な日々の中、それでもアイスホッケーを続ける足立には、こんな強い思いがあった。マイナー競技ゆえの恵まれない環境。女子アイスホッケーをもっと多くの人に知って欲しい。そのために何としても五輪に出場する。それが足立の一番の願いだった。
女子アイスホッケーが正式種目になったのは長野五輪から。実はこのとき日本は、開催国枠で出場。しかし、5試合で45失点を喫し全敗した。その後3大会は予選敗退。前回のソチ五輪で、ようやく予選を突破し、足立は28歳で初めて夢舞台に立った。しかし、足立のプレーは世界では全く通用しなかった。結果は5戦全敗。五輪に出ただけでは何も変わらない。五輪で勝たなければ…。屈辱の中で足立は思いを新たにした。世界で勝つために何が必要か。足立は痛いほどわかっていた。それはフィジカルの強化。リンクの上で、それぞれ6人の選手が激しくぶつかり合うアイスホッケー。常に止まることなく動き回り、選手は約1分でベンチにいる選手と次々交代する。日本代表は、この運動量に関して劣っているわけではない。事実、惨敗を喫したソチ五輪でも、体力・スピードは世界でも十分通用していた。しかし、フィジカルでどうしても太刀打ちできず、チャンスを作ってもあと一歩のところでねじ伏せられてしまう。これが得点のチャンスが潰され、失点ばかり増えてしまう最大の原因だった。特に体格で劣る足立にとってフィジカルの強化は最大の課題だった。現在31歳の足立。大きな外国人選手に負けない程、筋肉を強化するのは並大抵のことではない。しかし足立は、超人的な努力を積み重ねた。4年前は、チーム平均1回にも満たなかった懸垂だが、今はチーム平均12回を達成。これはバンクーバー五輪、銀メダルを獲得したアメリカ代表の数値を上回っている。ソチの屈辱から3年。世界で戦える土台は出来た。
2017年1月。五輪最終予選を間近に控え、代表チームは強化試合を行った。相手は世界ランク2位、カナダの代表選手が9名在籍するクラブチーム、カルガリー・インフェルノ。3年間の成果が問われる一戦だ。試合開始早々、チャンスを作ったのは足立だった。体格で上回るカナダの選手相手に素早い動きでリンクを走り回る。DFの床が得意のロングシュートで直接ゴールを決めた。第1ピリオドは日本代表が1-0とリード。フィジカルで互角に渡り合い、ドリブルが得意な米山のカウンター攻撃から、最年長35歳の小野が決め2-0。そして足立のフィジカルが試される場面が。相手ゴールの前で1対1の展開になった。身長差20cmもある相手に対等に渡り合った。リードを守り第2ピリオドが終了。そして、最終ピリオドで再び足立が魅せる。相手DFを3人かいくぐり得意のパス。決めたのは足立と同じクラブチームのエース久保。3-1で見事日本代表が勝利。監督も選手も自信に満ち溢れていた。
そして2017年2月9日、いよいよ平昌五輪最終予選がスタート。わずか1枚の切符をかけ、日本、ドイツ、オーストリア、フランスが総当たりで戦う。日本は、オーストリア、フランスに連勝。同じく2連勝のドイツと対戦。勝った方だけが五輪への切符を掴む。絶対に負けられない運命の一戦となった。そんな妻の大一番を見届けようと、足立の夫・拓史さんが応援に駆けつけた。いつもサポートしてくれる夫の前で何としても決めたい。試合が動いたのは第2ピリオド。フェンス際、パックを必死につないだ足立のプレーがチャンスを引き寄せる。足立がパックにスティックを当て軌道を変えた。さらにパスを受けた最年少18歳の榎本も、当たり負けせずゴール前にパス。まさにチーム一丸でもぎとった先制点だ。その後2点目もゲット。しかし五輪出場をかけたこの一戦。厳しさを増したのはここからだった。ドイツに1点を返されると流れは一気に相手に。その時、足立の渾身のディフェンスがチームを救う。この粘りこそフィジカル強化の賜物。足立の3年間の努力が日本のピンチを救った。そして残り5分。足立とクラブチームでともにプレーするエース・久保が3点目のゴール。最終予選3連勝で日本代表は2大会連続で五輪出場を決めた。それは、世界で勝つための足立の3年間の戦いが、初めて報われた瞬間だった。
大好きなアイスホッケーのために戦い続ける1人の女性アスリート。悲願の五輪初勝利を夢見て、足立友里恵は今日も小さな体を鍛え続けている。
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