バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #548 2016.11.26 O.A.

バックナンバー
渋井陽子 37歳新たなる挑戦
彼女はなぜ走り続けるのか?女子マラソン、元日本記録保持者・渋井陽子(37)。同年代のランナーが相次いで引退する中、彼女は今なお過酷なトレーニングを続けながら現役を続けている。そんな渋井が初めて語った引き際への思い。37歳という年齢に抗い、限界に挑戦し続ける女性ランナーの激闘を追った。
1997年、女子実業団日本一を決めるクイーンズ駅伝に18歳で初出場してからこれまでに19年連続で大会に出場し続けてきた渋井。そのうち15回は、各チームのエースが激突する3区を走り、7度の優勝に貢献。チームの命運を左右する途轍もない重責を担い続けてきた。そんな渋井も今年で37歳。同年代のトップランナーたちが、次々と引退して行く中、今も現役として走り続けている。37歳になった今も、多い時は月1000キロに走りこむという。日夜、身体を追い込む。長年、酷使してきた身体は、満身創痍の状態だ。それでも走り続ける37歳の長距離ランナーの胸の奥に秘められたものとは?
今から15年前の2001年、当時21歳の渋井は、初めてのマラソンで、初マラソン世界最高記録をマークし優勝。さらに2004年には、あのシドニー五輪金メダリスト、高橋尚子が持っていた日本記録を塗り替え、世界歴代4位となる、2時間19分41秒を叩き出し、その名を轟かせた。
常に笑顔の絶えない明るい性格。渋井は一躍マラソン界のスターとなり、日本中からメダルの期待が寄せられた。しかし、五輪でも世界陸上でも、結局メダル獲得はならなかった。それでも日本の女子長距離界が黄金時代にあった2000年代、渋井は紛れもなくその中心選手の1人として強烈な光を放っていた。そんな渋井の原点こそ駅伝だった。チームの誇りをかけ、タスキを繋ぐ駅伝を走ることに渋井は強いこだわりを持っていた。五輪選考レースと日程が重なり、厳しい状況を余儀なくされようとも、渋井は駅伝を走るための調整を絶対に欠かそうとしなかった。よりスピードが要求される駅伝。その闘いを続けたことが、マラソンでも生き、トップランナーへと自分を押し上げてくれたという。しかし30歳を過ぎた頃からその走りに陰りが見え始める。マラソンのレース終盤に突然失速。逆転を許すレースが相次いだ。同じパターンで連戦連敗。さらに全力で注ぎこんでいた駅伝でも勝利に貢献する走りができなくなり、チームも2009年の優勝を最後に下降の一途をたどった。1年ことに突き付けられる現実。「引退」その2文字が渋井の頭の中を駆けめぐっていた。しかし、どうしてもその決断に踏み込めない、もう1人の自分がいることにも気づいていた。今辞めたら納得ができない。そんな思いが少しでもある以上、走り続けるしかない。それが37歳の長距離ランナーが自分と向き合い導き出した答えだった。
彼女は自分の走りを原点から見直そうと陸上界では前例のない新たなトレーニングを取り入れた。それはキックボクシング。2年前(2014年)、知り合いのトレーナーからの薦めでジムに通い始めた。実はこのトレーニングがランニングフォーム改善に絶大な効果をもたらすのだという。渋井の場合、走る際、地面を蹴るのに余計な力が入ってしまう。その結果、上手く推進力に繋げられず、後半のスタミナ切れを引き起こしている。無駄な力を極力抑え、脚力をどう最大限活用するか渋井は模索し続けてきた。そんなとき出会ったのが、キックボクシングだった。キックボクシングでは、脚を振り上げるときに力を入れ、後は力をぬきムチのようにしならせるキックが理想とされている。渋井はその動きを繰り返し行う事で走りに通じる力みのない脚の動かし方がはっきり実感できるようになったという。さらに理想のフォームにより近づけるために80メートルの急こう配の坂道を全速力で駆け上がる。前傾姿勢を保ち、全力で坂を駆け上がることで、踏み込む力を最大限、推進力に伝えられるフォームが身につくのだという。こうして貪欲に何でも取り入れながら渋井はアスリートが直面する肉体の衰えにも全力で抗い続けた。
2015年11月、キックボクシングを始めて1年半が経った渋井は、自身20回目となるマラソンに出場。レース序盤、先頭集団につけた。そして28キロ過ぎにレースが動いた、先頭集団のうち4選手が一気にスパート。渋井は5位に順位を落としてしまった。しかし渋井は、全く動じることなく追い上げのチャンスを虎視眈々と狙っていた。そして36キロ過ぎ、いつもスタミナ切れをしていた終盤で、1人を抜かし4位に浮上。そのままゴールし、日本人では2位という結果だった。まだまだ自分はやれる。そう改めて実感した。
そして2016年11月、渋井はクイーンズ駅伝に向け最終調整を行っていた。後輩たちにも勝つ喜びを味あわせてあげたい。そんな秘めたる思いを胸に、一回り以上離れた選手たちと共に必死に汗を流している。今年、渋井は第6区のアンカーとして出場。自身20回目となるクイーンズ駅伝に向け渋井の挑戦は終わらない。
幾多のライバルたちとしのぎを削ったあの渋井陽子が飽くなき向上心を胸に11月27日、クイーンズ駅伝を走る。彼女が笑顔でゴールするその瞬間を心待ちにしよう。
[BACKNUMBER]
banner_AD
Loading…

SNS

TBSトップページサイトマップ Copyright© 1995-2024, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.