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BACK NUMBER #541 2016.10.8 O.A.

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武蔵川部屋 親方と弟子たちの奮闘の日々に密着
東京都江戸川区にある武蔵川部屋。現在、16人が在籍するこの部屋に、関取と呼ばれる十両以上の力士は1人もいない。幕下以下の力士は、いわば見習い、年収は100万円にも満たない。1日も早く関取になるべく、日夜、厳しい稽古に励む。そんな彼らを指導する親方が第67代横綱・武蔵丸(44)。我々は、彼がこの部屋を立ち上げた3年前から取材を開始。奮闘する姿を追い続けた。弟子わずか4人でのスタート。その4人に親方自らちゃんこ作りを教えた。部屋のおかみとなった妻・雅美さんと共に、懸命に部屋を切り盛りしていた。あれから3年がたち、弟子が4倍に増えた武蔵川部屋。そこには日本の国技、相撲を根底から支える元人気横綱・武蔵丸の壮絶な戦いがあった。
武蔵川部屋は、かつて別の相撲部屋が使用していた建物を賃貸で借りている。1階が稽古場。2階が弟子たちの部屋。そして3階が親方の自宅。16人の弟子たちは、2階で共同生活をしている。午前中は稽古、午後は主に自由時間となり休息や自主練習にあてる。弟子の平均年齢は20歳。自由時間は思い思いのことをして過ごす。取材中こんなことも。暑い季節、大部屋に1台だけある扇風機はいつも奪い合い。掃除は弟子全員で分担。建物の隅々まで毎日綺麗にしなければならない。ちゃんこは1日2回。作る係は4人一組で4日に一度の当番制だ。こうした生活が、相撲に留まらない人生教育になると親方はいう。そして3階が親方の自宅。この3年の間に新しい家族が増えた。息子のジョーイ君。2歳の息子は四股を踏むのが大好き。稽古場では、厳しい顔しか見せない親方が、優しいパパの顔になる。親方の頭は常に弟子たちのことでいっぱい。日々の日課は、録画した16人の弟子、全員の取組をチェックすること。親方は、この3年間、必死にこの部屋を切り盛りしてきた。弟子を育てるにはとにかく経費がかかる。過去には、経営がうまくいかず、閉鎖した相撲部屋も少なくない。その上、親方には外国出身者ならではの苦労もあった。その1つは弟子集め。国内の相撲部がある高校や大学との繋がりが親方にはほとんどない。この日は、知り合いを通じて、都内の高校の柔道部を訪問。といっても、スカウトというわけではなく、相撲を体験してもらい、興味を持ってくれる者を探す。さらに、後援者も国内に地元がない親方は自ら探さなければならなかった。北は北海道から南は沖縄まで、全国各地を訪れ、武蔵川部屋を宣伝、こうして自分の足で縁を繋ぐことが、弟子集めや弟子が引退した後の再就職先にも繋がることになっていた。部屋のある、東京・新小岩の人たちとも交流を深め、今では街にしっかりと根付いている。そんな親方の最大の課題。それは、部屋を創設して3年、未だ十両以上の力士、関取を1人も生んでないこと。16人の弟子は幕下が最高位だ。関取は番付表の太字で書かれ、現在652人いる力士の中で、わずか70人。その存在は、部屋の行くすえを左右する。関取の取組は地上波でテレビ中継されるため部屋の知名度は格段に上がり、弟子入り希望者や後援者の増加に繋がる。何より関取が部屋を引っ張ることで、力士のレベルアップに繋がるという。そんな親方が1日も早く関取になることを望む1人の力士がいる。幕下26枚目、武蔵国(21)。武蔵川部屋では、番付最上位、関取に最も近い位置にいる力士だ。身長190センチ、体重165キロ。ハワイ出身で、親方の甥にあたる。幼い頃から、叔父さんに憧れ、高校卒業後、来日。叔父が部屋を創設すると迷わず、その門を叩き入門した。それから3年がたち、日本の生活にすっかり馴染んだ。しかし、21歳になった今も思うような成績は残せず、伸び悩んでいる。叔父である親方は、わずか2年で関取に昇進、そして横綱へと駆け上がった。伸び悩む武蔵国に、親方は歯がゆい思いを隠せない。9月場所を2週間後に控えた日、武蔵国は藤島部屋に出稽古に訪れていた。武蔵川部屋には武蔵国より強い力士がいないため、出稽古が本格的な稽古の場となる。我先にと、何度も何度も挑み続ける武蔵国。計40番。力を振り絞り果敢に稽古に励んだ。
そして迎えた9月場所。取組は全部で7番。勝ち越せば、十両に近づく。しかし、先場所6勝1敗と大きく勝ち越したことで、この場所での対戦相手のレベルは一気に上がっていた。初日の相手は元前頭の鏡桜。関取経験者との一戦。武蔵国の足が先に俵をわり黒星。初日から手痛い結果となってしまった。これを見た親方は、部屋に戻るなり武蔵国を叱り付けた。その後も苦戦の連続だった。5番を終え1勝4敗。早々と負け越しが決定してしまう。翌日、ふがいない武蔵国についに親方の怒りが爆発した。しかし、6番目も勝てず1勝5敗に。そんな彼を心配したおかみさんが武蔵国に声をかけ励ました。そして迎えた千秋楽。このままでは終われない。そんな思いで挑んだ。武蔵国は最後の取組を白星で飾った。その夜、親方は武蔵国にあえて何も声をかけなかった。自分で考えて次に繋げて欲しい。そんな思いだった。9月場所を終え、部屋は1週間の休みに入った。しかしそこには、後輩たちと自主練習に励む武蔵国がいた。下を向いてなどいられない。この部屋を引っ張るのは自分しかいない。そんな決意を胸にした。
3年目を迎えた武蔵川部屋。その土俵には、1日も早く強い関取を育てたい。元横綱・武蔵丸の思いと16人の無名の力士の熱き魂がこだましていた。
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