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BACK NUMBER #540 2016.10.1 O.A.

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巨人三軍 第三弾 生き残りを懸けた激闘の舞台裏
入団したその瞬間から格差社会の現実と如実に向き合わなければならないプロ野球の育成選手。破格の契約金と大きな期待を背負い、プロになるエリート選手とは違い、契約金はなく、一軍の試合に出場できる支配下登録という身分もないのが育成選手だ。目指すは人生最大の大逆転。育成から支配下登録を勝ち取り、夢の一軍の舞台へ。そんな育成選手を鍛えるために巨人は今年、新たに三軍を創設。その戦いを我々は追い続けた。そして訪れた運命の日。巨人三軍の選手たちに一体どんな未来が待っていたのか?
三軍選手の目標はただ1つ。球団に己の実力と進化を認めさせ、ドラフトで指名され入団した選手たちと同じ支配下登録という身分を勝ち取ることだ。そんな選手たちにとって、今年、最も大きく変化したことがある。それは2015年まで二軍ですら、ほとんど出番のなかった選手に出場機会が増えたこと。三軍独自の試合が年間100試合も組まれ、川相三軍監督を始め、コーチ陣の指導のもと、経験を積み、技能の向上がはかられるようになったのだ。独立リーグや大学チームを相手に全国各地を転戦する。深夜に長距離バス移動も珍しくない。プロ野球選手とは思えない過酷な環境だ。そんな彼らにとって最大の励みになっていたのが、今年のシーズン中、3人もの育成選手が支配下登録されたこと。その1人が一軍登板まで果たしたのだ。それは三軍選手全員の目標でもある。しかし、シーズン中盤の7月30日、三軍選手は厳しい現実にさらされていた。この日は支配下登録の期限。巨人には残り1枠があったが、球団は今シーズンの昇格はないと発表。この瞬間、今年中の支配下登録という目標を失った23名の三軍の選手たち。その表情にはショックが隠せなかった。直後に行われた独立リーグとの試合ではミスを連発。普段の心理でいられないことが随所に顔をのぞかせた。シーズンはまだ2か月以上も残っている。
8月、チームに重い空気が漂う中、気持ちを切り替え、必至に練習に取り組む男がいた。芳川庸(23)。入団5年目のキャッチャー。育成選手の野手として最も在籍年数が長い。秦コーチとの居残り練習でも気迫を見せる。芳川が練習熱心なのは今に始まったことではない。取材を始めた2月のキャンプから黙々とトレーニングを続ける姿を我々のカメラは捉えていた。育成選手で5年は異例の長さ。ここまで毎年、支配下登録を目指し、懸命に汗を流してきた。そこにはプロ野球選手への一途な思いがあった。メジャーリーガー、城島健司に憧れ、幼い頃からプロ野球選手を目指していた芳川。そんな息子を教育者だった父は、文武両道を目指すべきだと厳しく育てた。その結果、芳川は進学校である京都府立洛北高校に入学。4番キャッチャーとして3年間活躍したが、プロが注目するほどではなかった。しかし、夢を諦め切れず、受験勉強に励む同級生を尻目にプロ野球の入団テストを受験。すると、長打力と強肩が買われ、巨人の入団テストに合格。育成ドラフト4位で入団することになった。京都の公立校出身、頭脳派のキャッチャー、さらにテスト入団という経歴から、当時マスコミは「ノムさん2世」と大きく報じ、野球ファンの間で話題を呼んだ。そして2012年、育成選手として巨人に入団。その長打力が注目された。しかしそのころ、巨人のキャッチャーは阿部慎之助が頂点に君臨。控えには、實松一成や加藤健、さらにその後もドラフト1位で小林誠司、FAでベテラン相川亮二まで入団する分厚い選手層を誇り、育成選手の芳川は二軍戦にすら、ほとんど出場できなかった。しかし三軍ができた今シーズン、芳川に大きなチャンスがやってきた。それは一塁手への挑戦。それは川相監督からのすすめだった。今シーズン序盤、一塁手として出場した芳川は、川相監督の期待に応え必至の猛アピール。自慢の長打力を見せた。6月には、打率2割7分をキープ。ところがその矢先、台湾遠征でバッターランナーと交錯し、右太ももの肉離れ。戦線離脱を余儀なくされた。ようやく掴んだチャンスがこぼれ落ちていく。今年でクビになってしまうかもしれない…。そんな不安に押しつぶされそうになる日々。しかし芳川は今年、これまでにない手応えがあった。三軍という舞台が出来たことで、野球が出来る喜びも感じていた。可能性がある限り野球に向き合いたい。そんな思いを胸に必死に不安を振り払い1か月以上リハビリを続けた。今年の支配下登録の期限を迎えたのは、その最中のことだった。芳川は動じることなくリハビリに励んでいた。そして8月上旬ようやく復帰。支配下登録を勝ち取れなかった悔しさは全員が持っている。芳川はだからこそ前向きな姿を見せ、チームを引っ張ろうとしていた。そんな芳川の姿を首脳陣はしっかりと見ていた。
8月末に行われた慶應大学との一戦。芳川の活躍に押され、この日は打線が爆発。満塁ホームランを含め、なんと26得点。大学生相手にプロの力を見せつけた。そして9月25日、三軍は今シーズンの公式最終戦。山梨県のクラブチームとの試合で芳川は、7番・指名打者でスタメン出場。序盤から毎回得点を重ね、三軍のペースとなったこの試合。芳川も第3打席で左中間を深々と破る3塁打。続く4打席目もタイムリーヒットを放ち、芳川は今シーズンを良い形で締めくくった。
現在、巨人三軍はシーズン中と変わらず練習を続けている。23名の中の誰が来季の契約を勝ち取るのか?戦いは続いていく。
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