バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #527 2016.6.25 O.A.

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リーゼントボクサー・和氣慎吾(28) 世界に挑む男の戦い
東京・板橋にある古口ジム。ここに今、世界チャンピオンに最も近いボクサーとして注目を浴びている男がいる。IBF・スーパーバンタム級、世界ランキング1位の和氣慎吾(28)。サウスポー、そして身長173cm。リーチの長さを生かしたボクシングが、彼のファイティングスタイル。その実力と共に話題を呼んでいるのが個性的なキャラクター。和氣がこだわる試合の入場曲は中学時代から聞き続ける長渕剛。さらにもう1つのこだわりが、ヘアースタイル。毎朝、ドライヤーとクシを使ってきっちり髪を整えていく。今から15年前、和氣は、地元・岡山で札付きの悪として有名な存在だった。一体、この15年間に何があったのか?そこには息子を信じ続けた両親とその思いに必死に応えようとした息子の壮絶な物語があった。
1987年、和氣は3人兄弟の末っ子として岡山市で生まれた。幼い頃は、大人しい性格で、兄の後ろをいつも付いて行くような存在だったという。小学校に上がるまでは、家族旅行に度々出かけるなど、幸せな日々が続いた。そんな生活が一変したのは、和氣が10歳の時。父が営む鮮魚店が倒産。父・文利さんは、市場やスーパー、回転寿司店など多いときで4つの仕事をかけ持ち、借金返済に奔走。そして、母・昌子さんも工場でパートを勤め、一家を支え続けた。その結果、家族5人で過ごす時間は、ほとんどなくなった。そんな状態が続く中、中学生になった和氣は、寂しさや孤独を埋めようと、不良仲間と付き合い始める。未成年でタバコを吸い、喧嘩に明け暮れた。当時、ボクシングを始めたのも、ケンカに負けないために習い始めたものだった。その後も、非行は止まらず、学校から謹慎処分に。その間、両親は何度となく謝罪に出向き、仕事先にも迷惑をかけていたという。そんな両親に、申し訳ないという気持ちは持っていた。しかし、仲間との距離を取ることが出来ないまま、ついに最悪の事態を招いてしまう。高校卒業間近、暴走行為の容疑で警察署に呼び出された。その時、母の目には涙が溢れていたという。母の号泣を目の当たりにした和氣は、ようやく心が動いた。鑑別所に入所後、両親宛てに一通の手紙を書いた。母の昌子さんはこの手紙を受け取った時のことを、今でも鮮明に覚えている。そして鑑別所を出ると、保護観察付きで高校を卒業。ボクシングに本腰を入れるため、古口ジムに入門。和氣は入門1年でプロデビュー。そのデビュー戦を試合開始24秒でKO勝利で飾った。しかし、プロの世界は甘くはなかった。喧嘩の延長でしかなかった和氣のボクシングは、試合を重ねるごとに通用しなくなった。デビュー4戦目で黒星を喫し、その後3敗。理想と現実のギャップを容赦なく突き付けられた。そんな挫折感に包まれた和氣に、更なる事態が襲い掛かった。仕事を4つも掛け持ちし、懸命に働いていた父・文利さんが、体調不良を覚え、検査したところ脳梗塞と診断された。幸い軽度だったため、薬物療法や定期健診を行えば、日常生活に戻れる状態だったが、和氣は気が気ではなかった。そして、苦しみから逃げるようにこんなメールを父に送った。
“ボクシングを辞めて、岡山に戻る…”
それは、鑑別所で書いたあの手紙の約束を破る事を意味していた。自分の病気をきっかけに、そんな決断をさせてはいけない…。父は息子にこう返信した。
“チャンピオンになるまでは帰ってくるな!お前なら絶対になれるから頑張れ”
父の言葉は、あの日、母が流した涙のように和氣の心に突き刺さった。和氣は東京でボクシングを続けると決意。そして勝ち続けた。得意の左ストレートを武器に6連続KO。時には対戦相手をリングの外に吹き飛ばすことも。そして、東洋太平洋の王者に上りつめた。
東京・板橋にある和氣の自宅。家賃12万円の2LDKに愛犬とともに住んでいる。上京した時からのアルバイト生活は、ようやく終わり、ボクシングだけで生活できるようになった。
2015年6月、和氣はビッグチャンスを掴んでいた。世界ランキング3位の選手との対戦で、勝てば世界タイトルマッチへの挑戦権が獲得できる。そんな大一番に岡山から家族を呼び挑んだ。相手は、打たれ強いタイのボクサー。序盤から積極的に仕掛けた。しかし、逆にカウンターを浴びてしまう。試合は最終12Rへ。そして、残り5秒となったそのとき、ついに左ストレートでダウンを奪った。攻め続けた和氣の渾身の一発だった。そして、KO勝利とはならなかったが、判定で世界タイトルマッチへの切符を掴んだ。
そしてついに、実現する運命の世界タイトルマッチは、7月20日。和氣は決戦を前に、最終調整に入っている。紆余曲折のボクシング人生を歩んできた男が、あの日、両親と交わした約束を果たすためいよいよリングに上がる。
かつて、手の付けられない不良少年だった男が、自分を信じ支えてくれた両親に誓う世界のベルト。和氣慎吾、28歳のもう1つのバース・デイを見ることは出来るのか?
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