バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #520 2016.5.7 O.A.

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アスリートと母の2足のわらじ 女子バレー・荒木絵里香
今年3月、朝6時。一人の女性が出掛けようとしていた。2歳の娘を残し行かなければならない。娘を母に託し、後ろ髪を引かれる思いで家をあとにする。しばらく娘の元には帰ってこられない。バレーボール選手、荒木絵里香(31)。向かったその先は、全日本女子バレーの代表合宿。このときチームは、五輪出場権をかけた世界最終予選を2か月後に控えていた。荒木は、その全日本に4年ぶりに召集された。荒木はかつて全日本の中心選手だった。186cmの長身を生かし相手のスパイクを完璧に防ぐ。そして、強烈なスパイク。外国人を圧倒する力強いそのプレースタイルで、鉄腕エリカと呼ばれた。それに加え、チーム全体に目を配る細やかさも持ち、全日本のキャプテンを務めた。そして臨んだロンドン五輪では、全日本女子28年ぶりのメダル獲得に貢献。その翌年、荒木は元ラグビー選手、四宮洋平と結婚。それを機に所属するVリーグのチーム退社した荒木は、娘を授かり母としての道を歩んでいた。しかし、出産からわずか5か月で現役に復帰。子育てとバレーボール選手の両立。日本でほとんど例のないこの決断の裏には、幼い頃からバレーにかけてきた一人の女性のゆるぎない信念があった。
小学5年生で、身長は174cm。すでに注目の的だった。中学まで岡山でバレーボールを続け、高校は東京の強豪校、成徳学園に進学。身長は180cmを越え、荒木は中心選手として3年生のとき高校3冠という偉業を見事達成。まさに、バレーボールのエリート街道を歩いていたが、このとき世間の注目は別の選手に注がれていた。同い年の栗原恵と大山加奈。共に17歳で全日本入りした2人は、メグカナの愛称で親しまれ、日本女子バレー界期待の星として、まばゆいばかりの光を放っていた。そんな2人の存在は、荒木にとって大きな刺激となっていった。高校を卒業し、Vリーグの名門、東レ・アローズに入団した荒木は、1年目から中心選手となり、高卒新人ながらシーズンのベスト6に選ばれるという大活躍を見せる。そして、同い年の大山・栗原に遅れること3年、荒木はアテネ五輪の代表候補に選ばれ、ようやく肩を並べた。しかし荒木は、柳本ジャパンの厳しい練習についていくことが全く出来なかった。栗原と大山が五輪メンバーに選ばれる一方、荒木は落選。このときの悔しさを忘れたことは1日もないという。2年後、荒木は22歳でついに全日本としてスタメン出場を果たす。アテネ五輪で銅メダルを獲得した強豪キューバ相手に荒木は、チームを牽引。荒木はこの試合、チーム最多得点をたたき出し、格上相手にストレート勝ちする原動力となった。これを機に全日本に定着。大山・栗原に追いついた。そして2012年のロンドン五輪、28歳の荒木はキャプテンとして大舞台に挑んだ。迎えた韓国との3位決定戦。悲願のメダル獲得へ、その期待をキャプテン・荒木が一身に担っていた。初得点を荒木が決める。相手に押される苦しい時間も声を張り上げチームを鼓舞。見事、28年ぶりとなる銅メダルを獲得。荒木はその栄光をキャプテンとして掴んだ。まだ28歳。バレーボール選手としてもっと進化できる。しかし、その進化の方法は常識とは違っていた。五輪の翌年、荒木は結婚。相手は6歳上の元ラグビー選手・四宮洋平さん。大学日本一に3度輝き日本代表にも選ばれたトップアスリートだ。荒木は結婚後も現役を続けたが、妊娠を機に現役を一端、退くことを決断。無事、女の子を出産した。しかし、母として暮らす中でも、バレーボールへの思いが消えることはなかった。五輪で感じた選手としてもっと成長できるという手応え。すぐにでも復帰したい。しかし、生後間もない子どもがいる。そんな悩める荒木を支えたのは、家族だった。子育てとアスリートの2足のわらじ。新たな挑戦が始まった。出産から5か月で、現役に復帰した荒木を選手として受け入れたのは、埼玉県にある上尾メディックス。上尾メディックスは、その年Vリーグの1部に昇格したばかり。そんな、ほとんど実績のないチームが元全日本のキャプテン・荒木に白羽の矢を立てた。女子バレー選手のピークは、20代までと言われる。現役復帰した荒木は、この時30歳。しかも1年近いブランクがある。それでも荒木は、逆境を乗り越えてきた自らのバレー人生を胸にこれから来るはずの実りある未来を信じて、毎日6時間の練習に取り組んだ。帰宅は夜6時。母としての時間が始まる。この日、荒木が練習で留守の間、長女の面倒を見てくれていたのは夫の洋平さんだ。夫は現役引退後、7人制ラグビーのクラブチームの監督を務めている。休日は、妻の負担を減らそうと育児のサポート。荒木がコートでは見せない母の顔を見せる。現役復帰を決めたのは、娘の存在も大きかったという。
現役復帰を発表して5か月後。荒木は、Vリーグ開幕戦でコートに立った。得意のブロック。決めた後の表情も健在。荒木は初勝利に貢献した。その後も、上尾の中心選手として活躍。現役復帰から2シーズン、2年連続でリーグ1位となるブロック賞を獲得した。そんな荒木の姿に注目していたのが、全日本監督・真鍋だった。実は荒木が代表を離れて以降、全日本は国際大会で苦しみ、結果を出せないでいた。そして、4年ぶりに荒木は全日本入り。1週間後に始まる五輪世界最終予選。リオへの切符をもぎ取るべく、荒木はチームのそして家族の期待を担い待ったなしの大一番に挑む。
同い年のライバルたちに負けた悔しさと屈辱を胸に、全日本の中心選手になった荒木絵里香。母の強さを増した彼女にニッポンの運命が委ねられる。
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