バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #504 2016.1.9 O.A.

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1年でクビになったプロ野球選手…中村恵吾
2015年11月。働き盛りの26歳の男は、突然、人生の岐路に立たされた。元福岡ソフトバンクホークス投手・中村恵吾。この1か月前、球団に呼び出された彼はまさかの戦力外通告を受けた。そのショックは無理もなかった。なぜなら中村の入団は、わずか1年前のこと。大学、独立リーグを経て25歳で念願のプロ野球選手になったにも関わらず、わずか1年でクビを宣告されたのだ。
プロ野球の世界で、育成選手をとりまく環境はかなり厳しい。育成で入団した選手のうち、支配下登録を勝ち取れず3年以内に戦力外通告を受ける選手は、実に64%にも及ぶ。2015年、12球団最多の22名が在籍したソフトバンクは中村を含め5人に戦力外通告。その中でも、1年でのクビはかなり稀なケースだ。高校卒業から8年をかけ、やっとプロの舞台にたどり着いた26歳がわずか1年での解雇通告。納得する事など出来なかった。中村のプロへの道のりは長く険しかった。
山口県・宇部鴻城高校で、主将を務め甲子園を目指すも県予選で敗退。その後、神奈川大学に進学し野球を続けたが、ケガもあり公式戦の登板はわずか1試合。4年生最後のリーグ戦では、ベンチ入りさえも出来なかった。それでも野球を諦めきれなかった中村は、独立リーグのトライアウトを受験。何とか合格は掴み取ったものの、当時の球速はマックス123キロ。1年目はほとんど登板の機会が巡ってこなかった。そこで中村は、シーズンオフに肉体改造を決意。徹底したトレーニングを続けた結果、体重が10kg増え、球速が142キロにまで上昇した。そして2年目、中村は中継ぎとしてチームの勝利に貢献する様になり、ドラフト候補と噂される様になった。そして2014年10月、福岡ソフトバンクが育成8位指名。この年指名された全選手の最後となる104人目の指名でプロ野球選手になった。このとき25歳。高卒でプロ入りした同級生に遅れること8年。中村は遠い世界だと諦めていたプロの世界に足を踏み入れた。入団1年目、中村の戦いの舞台は3軍だった。3軍とは、選手の育成が最も重視され、多くの実戦経験を積む事が出来るチーム。地元の大学・社会人、独立リーグなどと年間70試合近くゲームを行う。中村はその3軍で中継ぎとしてフル回転。3軍最多の23試合に登板した。さらに2軍戦でも4試合に登板。2軍の日本一を決める試合にも招集され、中村はファーム日本一の喜びをチームメイトと分かち合った。入団1年目、まずまずの手応えを感じていた。しかし球団から告げられたのは戦力外通告。中村はその言葉を受け入れられずにいた。26歳で育成契約。厳しいのは分かっていた。それでも、あと1年勝負させて欲しかった。中村は、その全ての悔しさをトライアウトにぶつけることにした。後悔だけはしたくない。中村はトライアウトに向け本格的な練習を始めた。11月7日。トライアウトまで、あと3日と迫ったこの日。練習場に向かう中村にある男が声をかけた。今年トリプルスリーを達成し、大ブレークしたチームメイト、柳田悠岐。2人は共に1988年世代の同級生。中村がキャッチボールしていると柳田が近寄り、中村のボールを見極め始めた。トライアウトへ、孤独な戦いを続ける中村。元チームメイトとの何気ないやりとりが心を和ませてくれた。
2015年11月10日。12球団合同トライアウト。この日の参加者は47名。例年より野手の参加者が少なく、ピッチャーは3人のバッターとしか対戦ができない。しかも今年のトライアウトは1回限り。アピール出来る場面はわずかしかない。プロでの実績が少ないだけに何とかインパクトを残したい。
1人目:デッドボール
2人目:ショートフライ
3人目:センター前ヒット
中村にとって満足できる結果ではなかった。それでも期限の1週間は球団からの連絡を待つことにした。しかしトライアウトから4日が経っても電話が鳴ることはなかった。そしてトライアウトから6日。中村のもとに1本の電話が。電話してきたのは、独立リーグ時代の後輩だった。今年、野球部を新設したシンセリティという会社が部員を募集しており、そのチームに既に入団が決まった後輩から、中村に勧誘があったのだ。もし、その誘いを受ければ、正社員としての採用。野球に止まらず、営業などの仕事も任されることになる。中村にとって何よりありがたかったのは、野球が続けられることだった。トライアウトから1か月。プロ野球界からのオファーはなく、中村は社会人チームで野球を続けることを決断した。週5日、営業職をこなしながら都市対抗出場を目指す。もちろんプロ復帰も諦めていない。
わずか1年で戦力外通告。その悔しさを胸に26歳の若者は、新たな道へ歩きはじめた。その未来に、どんな「バース・デイ」が待っているのか。エールを送りたい。
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