インタビュー
寺尾聰さん樋熊迎一役
今回演じられる樋熊迎一をどんな人物だと考えてらっしゃいますか?
先生と生徒という区分けがあるなか、やはり先生というと人生の中の道しるべみたいな、そういう役だと考えています。この物語の中に登場する、道を外れそうなってしまっている生徒たちを導く原動力というか、その方法として吹奏楽を通して生徒と向き合い、生徒たちを前へ向かせて一歩を踏み出させてあげるという、そんな先生だと思います。
実際に音楽活動もされてらっしゃいますが、音楽の魅力というと?
このドラマにおいては先生が生徒たちに、音楽の魅力に引き合わせるということだと思いますが、僕自身の体験としては、音楽の魅力というものは、自分自身が引きよせられるものだと思うし、実際に自分はそうでした。原案となっている吹奏楽部では、音楽の力で若い人たちを引っ張っていた先生がいらしたそうですが、僕自身のことを言うならば、自分自身の軌道を修正するときに音楽というものがありました。
いずれにしても、音楽というものは学生にとても良いと思います。ちょうど多感な時期にいろんなことを感じたり、これからの人生をいろいろと考える中、仲間という存在を共有したり、教室内で肩組み合ったりと、そういったときに音楽がある、音楽を通していろんなことを感じることは良い方法でしょう。
それと、音楽の種類として一人でやるものも中にはあるのだけど、邦楽に比べて西洋音楽は、たった一人でやるものは少ない気がします。日本の場合、尺八や琴、三味線など、一人で十分に成立するものがたくさんありますが、ハーモニーを作り出す音楽というのは吹奏楽に限らず複雑になるものだし、その分難しいと感じることもあるけど、自分以外の人と一緒に演奏することは、音楽の中でも私自身いちばん好きな部分かもしれません。
共演者の方について、親子を演じる多部未華子さんの印象というと?
多部さんとのシーンをまだそれほど撮ってはいませんが、多部さんはもちろん、今の若い俳優さんや女優さん、男の人も女の人も、昔の僕らがやり始めた新人の頃と違って、何故かみなさん素晴らしい感性と勘を持っていると思います。
特に多部さんは、みなさんご存知のように可愛らしさと可憐な感じをお持ちで、どうやっても嫌な人にはならないというか、それは彼女が持っている自分の個性なのだろうと思います。そういう女優さんが自分の娘役で一緒に演じられるということで、ちょっと自分もキチンとしなければまずいな…という気にさせてもらっています。
生徒役を演じる方たちはいかがでしょうか?
いくら若手といっても、同業者なので僕がどうのこうの言うことは失礼だと思いますが、現場で若い彼らと会ったときは「よーいドンだぞ」と言っています。ドラマでも映画でも、たぶん舞台でも、同じ現場に立てばそこから競争で、そこに差はないんです。年齢もさほど、役者としてのキャリアには全く関係ない。幕が開いたら誰がいちばんキラキラしていて素敵なのか? ということです。そこで彼らは、物怖じせずに「皆、よしっ!」と思って演じてくれていますし、そんな彼らを見ているととても気持ちが良いです。
それと、彼らを見て「俺も俳優になりたい!」と思っている若い人たちはたくさんいるはずなので、そういった人たちがいるということを、彼らは忘れないでやっていければ良いと思う。中には、テレビに出るようになって踏ん反り返る若い人も少なくないと思うのだけど、そういったやつは当たり前のように周りから追い越されますよね。
自分に与えられたことに対して、誠実に向き合うということ。今、一緒にやっている彼らは若くしてチャンスをもらえたわけだから、絶対にこのチャンスはモノにしてほしいと思います。この樋熊先生ではありませんが、そのためにも、一緒に演じながら少しでも彼らの背中を押せることがあるだろうと考えていますし、背中を押すとまではいかないにしても、「こういった方法もあるよ」というように、邪魔にならない限り、アドバイスできることは言ってあげたいなと思っています。
校長先生を演じられる石坂浩二さんとは数十年ぶりの共演だそうですが…
40年以上ぶりの共演です。僕が本当に駆け出しの頃、出させていただいたいくつかのドラマの中で、石坂さんが主演のドラマがありました。この度、一緒に出演できるということで、新人の頃を思い出しながら久しぶりにお会いしましたが、あの頃と全く対応が変わっていませんでした。
誰にも分け隔てなくフランクな方で、新人だろうがベテランだろうが、相手によって対応を変えるような人ではなかった、僕が想像していた通りの方でした。そんなこともあり、久しぶりに会えたことも嬉しかったですし、一緒に芝居できることも嬉しかったです。それこそ、亡くなった僕の父との方がお付き合いが長く、当時の話なども聞かせてくれますし、久しぶりのドラマの現場で、自分より年上の方がいてくれることも嬉しいところです。
石坂さんもそうですが、尾美くん升さんとの共演も楽しいです。尾美くんにいたっては彼の子役の頃、小学校に上がるか上がらないかの頃に映画で共演していますし、升さんとも何十年か前に共演しています。俳優の仕事って、また共演できそうでできなくて…と思っていたらひょんなところで再会したりするのですが、それこそ子役だった人がおじさんになっていたりと、この現場でそんなことを感じられて面白かったです。
最後に、このドラマの魅力など視聴者にメッセージをお願いします!
こういうドラマにしたいなと思って演じたり、いろいろと考えるのですが、自分の想像とは違うものに仕立て上がり、それが期待以上に素敵なものになっていたり、その逆もあったりするなど、いろんなことがあってこの何十年、仕事をさせていただいている中、日曜劇場という枠に、この年齢で自分が主演を務めさせていただくというチャンスをいただけたことが嬉しいです。
学園ドラマということで、若い俳優もたくさん出演しているので、たくさんの若い方たちに観ていただきたいと思うのと同時に、ドラマファンの中には僕の年齢に近い方もたくさんいると思うので、そういった方たちにも観ていただき、喜んでいただけると嬉しいです。どんな仕上がりになるのか、想像も付きませんが、ぜひ期待してご覧いただけると嬉しいです。