インタビュー

佐藤浩市さん&香川照之さん&橋爪功さん(Page.1)

皆さんが思う “リーダー” とは?

佐藤浩市さん (※ 以下、佐藤)  日本人は、そういうのが嫌いと言いながらも、ハッとすることを言う小泉純一郎さんみたいな方にはついて行くっていう資質がありますよね。

香川照之さん (※ 以下、香川)  僕は、これは圧倒的な労働量だと思います。労働量を惜しまない。リーダーというものは、立場が上なので、最後だるまに目を入れるだけでいいんだろうけど、愛知佐一郎さんもそうですが、全部自分でやるじゃないですか。
最初から最後まで全部自分でやってやろう… と。そこで皆が背中を見て、リーダー性を感じるんじゃないでしょうか?

佐藤
つまりエネルギーだよね。
香川
全部を知っていたいし、目を行き届かせたいというのを面倒くさがらない。急がしさを厭わない。でもそれを見せない。そういう人がリーダーのような気がします。
佐藤
さっき香川さんが言ったように、ちゃんと見ているんだよね。ちゃんと見ていないようで見ている。起業する人間には、そういうところが一番必要なんじゃないかなと思います。

橋爪功さん (※ 以下、橋爪)  あとは魅力だろうねえ…

香川
それが一番難しいですよね。
橋爪
相反するかもしれないけれど、“何もしていないんだけど、なんだか魅力がある” っていうのもあるじゃないですか。イヤな奴なんだけど、どこか魅力的。どこかついていきたくなるような…
香川
カリスマ性ですね。
橋爪
人心掌握に長けている人。まあ、いろいろなタイプがいると思いますけどね。
香川
そう考えると、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康…それぞれ全部当てはまりますね。
橋爪
そうなんだよね。
香川
信長はカリスマ性。秀吉は人心掌握。家康はたぶん労働力だと思うんですよね。
佐藤
だから、一概に一つだとは言えないんだろうね。

愛知佐一郎のリーダー性は?

佐藤
今言った中で言うと、自分の背中を見せていく。自分の夢に邁進していく。それに対してくじけない、泥の中を前のめりになっていくというところが周りを惹きつけていくのだろうと思います。僕自身もそういう人間として捕らえて演じているつもりです。
佐一郎には、欠けているものも確かにあるだろうけど、それを補ってでも余りある彼自身のエネルギーがある。時代が時代であったし、日本において稀有な存在だったのではないかなと思って演じています。
橋爪
彼は技術屋さんです。羨ましいですよ。こういう情熱家は。役者というのは、結構雑念ばかりですが、学者さんや技術屋さんのように1つのものを追っている人は、本当に羨ましく思います。
香川
狂気が見え隠れしますよね。恐ろしく正常な労働の奥にある狂気… という感覚がやはり愛知佐一郎さんもそうだったのではないかなあと思います。
橋爪
意外と近くにいると嫌な奴だったりして (笑)
全員
(笑)
香川
そういうところは、きっと家族たちがフォローしていたんでしょうね。
橋爪
技術屋さんとしては、一番理想だよね。愛知佐一郎は。情熱家でもあっただろうし。
香川
ちょっとした工夫が手先にも頭の中にもあったんでしょう。だって… あの時期、日本の復興がかかっているときに自動車会社を自分一人で責任を持ってやろうと思うなんて、よほど狂気がないとできないと思いますよ。
佐藤
先代が愛知自動織機を技術で成功している中で、一からまた自動車を作ろうと思ったという意味ではやはり狂気だよね。
香川
また、それを続けていくだけの粘り強さ、根気強さ…。それでいて狂気だけではない、周りが精密な機械になってまわっている。人としての魅力があったんでしょうね。
橋爪
とくにあの時代はいろんな人を生んでいるよね、日本は。
全員
うん。
橋爪
出光佐三 (石油元売会社出光興産の創業者) さんにしてもそうだろうし、
香川
本田宗一郎 (ホンダの創業者) さんだってそうだろうなぁ…
橋爪
時代がリーダーをつくったという感じだね。

愛知佐一郎を演じる上で気をつけていること…

佐藤
気をつけている上で演じることって、あまりないなあ…。
役柄と自分の中で感じたものがうまくリンクしていくとそのまま続けていけるし、なかなか近づけないこともあるし…。愛知佐一郎という人が持つ、非常にグローバルな人だけれど、狭い考えの中で突き進むという部分を僕が大事に演じていくというとこかな。あえて言えば。そうすれば必然的に自分と役柄がリンクしていきますからね。
香川
僕が演じる山梨良夫さんというのも、実在の日本銀行の支店長だったのですが、実際に愛知自動車に日銀として、お金を融資するということを決断した人物なんです。日銀の総裁である財部さんに 「君の覚悟を見せなさい」 と言われるワンシーンだけが、僕の中では骨になる部分だろうなと思っていたところでした。「本当にこの愛知自動車に君が金を貸す覚悟があるのかないのか」 と問われたとき、即答えるシーン。そこでのスピード感と、方向性さえあってればこの役は成立するだろうなと思いました。もうそのシーンは撮り終わったんですけれど、即決できる感覚、やはりスピード。スピードのある人が、僕は労働のリーダーだと思っているので、決断力にスピードがある感じが、山梨さんを演じる中では1つ気にしていた点ではあります。
橋爪
ふっかけられるんですよね。覚悟のほどを問われて…
香川
あれほど相手を信じることは、なかなか出来ることではないですよ。そして、融資をするのは巨額の金額ですから。 当時で4億円融資するということは、敗戦国の日本にとってどういうことか…。それを言えるということは、凄いことですよね。あの時代に大きな人物がいたから、こういうドラマが成立しているんですよね。自分も、その大きさに近づけるように演じなければいけないとは思っていました。