2019年1月スタート毎週日曜よる9時

グッドジャッジ

vol.5延命措置をめぐって対立!妻と愛人の立場はどう変わる?

『グッドワイフ』も第5話ということで、あっという間に折り返し地点まで来ましたね。少しずつ弁護士としての勘を取り戻してきた杏子ですが、朝飛との対決、夫の疑い、そして家庭問題など、まだまだ課題は山積みです。頑張ってほしいですね。

さて、第5話は、ロックスター東城数矢 (宇崎竜童さん) の財産をめぐって、妻ちなみ (銀粉蝶さん) と愛人である唯奈 (松本まりかさん) との間で、し烈な争いが繰り広げられました。その大きな引き金となったのは、唯奈のお腹にいる東城との子供の存在です。まだお腹の中にいて生まれていない子供 (胎児) は、日本の民法では、まだ 「人」 ではないという扱いで、権利や義務の主体とはなれないと考えられています (民法3条1項 「私見の享有は出生に始まる」)。そうすると、まだ生まれていない唯奈の子は、もし東城が死亡したとしても、財産を相続することはできないのでは?という疑問が生じますね。そこで相続に関する民法の定めを眺めてみると、実は 「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。(民法886条1項)」 という例外が設けられているんです。したがって、まだ生まれていない子であっても、財産を相続する権利があるということになるんです。

こうした相続のルールによって、唯奈の子は、東城の死亡により彼の財産を相続することができることになります (この財産は実質的にはこの子の親 (法定代理人) である唯奈が管理することになるでしょう) が、死亡した人間の配偶者にも法定相続権がありますので、まずは、「東城が死亡する前に離婚が成立しているか否か」 という事実の違いで、大きく状況が変わるわけです。①東城が死亡する時点で、まだちなみが妻 (配偶者) である場合は、妻側に法定相続分 (財産の2分の1) が生じます。つまり、唯奈の子が受け取れる相続財産は、全体の2分の1ということになります。

一方で、②東城が死亡した時点で離婚が成立していた場合は、もうちなみは妻としての法定相続権を失いますから、唯奈の子は東城の財産の全てを相続することができるようになります。相続財産の金額が大きければ、全部か半分か、というのは大きな違いですよね。そして、今回は離婚は成立せず (①)、という結果でした。

さて、①のケースでも、金額が大きければ半分もらえれば十分でしょ!と思われる方もいるかもしれません。ところが、今回のストーリーでは実はそう単純にはいかないんです。ポイントは、ズバリ 「延命措置」 です。相続制度を思い出してみてください。相続が発生するのは、あくまでも 「東城が死亡したとき」 です。東城がまだ生きている間に財産がゼロになってしまったら、いくら子供に半分相続権があるといっても、いざ相続の時には何にも得られないことになりますよね。そうです。唯奈側からすれば、東城の延命措置を続けるということは、すなわち、「ちなみが妻という立場をうまく利用して、相続が発生する前までに、東城名義の財産を隠す時間を与えてしまう」 ということを意味するんです。だからこそ今回は、東城の延命措置をするか否か、という選択が、妻と愛人 (の子) のそれぞれの利益を大きく左右することに繋がるんですね。

遺産をめぐる当事者の対立というのは決して珍しいことではありませんが、弁護士の仕事の中では、離婚事件等と並び、当事者の複雑な感情が絡み合う大変な分野の一つです。杏子はこれでまた一つ弁護士として成長しましたね!

法律用語豆知識

そういえば,いわゆる 「遺言 (ゆいごん)」 を弁護士たちが 「いごん」 と言っていたこと,気になりませんでしたか?
どちらも 「亡くなる方が残すメッセージ」 という意味では同じなのですが,「ゆいごん」 は特に限定なく,例えば 「家族で仲良く暮らしてほしい」 などの言葉も含まれますし,その残し方に別にルールも何もありません。
一方で,「いごん」 の方は,まさに 「誰々にいくら財産を相続させる」 といったような,法的に相続の内容を示す,生前の意思表示のことを指します。なので,「いごん」 として認めてもらうためには,ケースによって例えば 「すべて自筆でないといけない」,「立会人が必要」 といった,法律上のルールに従う必要があるんですね。
杏子たちが 「いごん」 と言っていたのは,こうした実務に基づく演出だったんですよ!

弁護士:國松 崇

元 TBS 社員弁護士。現在は東京リベルテ法律事務所に所属し,主にエンターテインメント分野の取引法務や訴訟対応等を中心に,多くの企業・個人に対し,幅広くリーガルサービスを提供している。また,刑事弁護人としての活動も引き続き精力的に行っている。『 99.9-刑事専門弁護士- シリーズ 』 など,多くの TBS ドラマにおいて,脚本作りや法廷シーンの演出など全体の監修を担当。

このページをシェアする

このページのトップへ