2019年1月スタート毎週日曜よる9時

グッドジャッジ

vol.10弁護士に求められる倫理とは… ついに最終話!

グッドワイフをご覧の皆さま,最終話いかがだったでしょうか?様々な人間関係や事件が絡み合って,一気にほぐれていく展開は見事でした。また,今作は,杏子の弁護士としての成長も描いてきました。16年ぶりに弁護士として復帰し,最初はたどたどしく法廷に臨んでいた杏子が,今ではすっかり現役の勘を取り戻して,検察や裁判官に鋭く迫る様子は,見ていて頼もしいほどです。私もいつも間にか,あっさり追い越されてしまったなあと思って見ていました (笑)。

ということで,このコラムのコーナーも今回が最後です。最終話では,多田の贈賄疑惑は何とか晴らすことができましたが,多田がかつて担当した裁判で 「お金で証言をとった」 という話が出てきましたね。その事実を受けて,神山が 「法律的にはグレーでも,弁護士の倫理としてはアウト」 ということを言っていました。これはどういう意味でしょうか?

まず,証人が裁判で嘘の証言をしてしまった場合は,皆さんもご承知のとおり,「偽証罪」 という罪に問われることになります (刑法169条)。なので,偽証を依頼したということになれば,多田は偽証罪の教唆 (共犯の一種) が問われることになってしまいます。しかし,多田は 「嘘をつかせたわけじゃない。出廷を渋っていたので来てもらうために金を積んだ」 というようなことを言っていました。つまり,証人は 「偽証」 自体はしておらず,偽証罪も成立しません。これが 「法律的にはグレー (=違法ではない)」 と神山が言っていた意味です。
では 「弁護士の倫理としてはアウト」 と言っていた部分はどういうことでしょうか。これは,弁護士であれば誰もが守らなければならない 「弁護士倫理」 という分野の話なんです。ごく一部の例外を除き,弁護士は法律によって,唯一,刑事事件で被告人の弁護人となることや,民事訴訟で当事者の代理人となることが認められています。要するに,当事者の人生を左右する場面に深く関与する立場にいるということです。本気でやろうと思えば,人の人生を狂わせることもできてしまいますよね。こうしたことを防ぐため,弁護士会では,法律の要請を受け,弁護士が弁護士として守らなければならない自主的なルールを設けています (「弁護士職務基本規程」 と呼ばれるものです)。

ここでも,当然,偽証やその教唆はダメだという定めがあるのですが,そういったことに繋がる行為として,「証言してもらうこと自体の対価として高額の報酬を支払うこと」 も,業界的には不適切な行為だと考えられています。多田は,一度や二度ではなく,しかも金額も何十万という金額ですから,当然このことは弁護倫理上,問題のある行為だとされてしまうおそれが高いでしょう。もしこれが弁護士会で問題のある行為だと判断されれば,多田はヘタをすればしばらくの間,弁護士として仕事ができなくなるかも知れません。それぐらい,業界的には 「ちょっとそれは…」 という感じなんですね。経営者として一緒に頑張ってきた神山が怒るのも無理はないところでしょう。

さて,物語のオチはああいう風になりましたが,皆さんはどういう感想を持たれましたか?妻の立場,夫の立場,子供の立場,あるいは多田のように密かな想いを抱えている人など,きっと見る視点によっては様々な意見や感想があるところでしょう。
このドラマは,そういったところが本当に魅力的でした。法律監修として,この作品に関われたことは,私にとっても新しい挑戦でしたし,非常に刺激的な体験となりました。アメリカの法律や実務の違いをどう日本に落とし込むか,そういったところでも毎回非常に悩みながら監修を進めましたが,そのあたりの評価は皆さんにお任せするとして (笑),このドラマが皆さんにとって,長く記憶に残る作品になってくれたら嬉しいです。
それでは,またどこかでお会いしましょう。今までありがとうございました !!

弁護士:國松 崇

元 TBS 社員弁護士。現在は東京リベルテ法律事務所に所属し,主にエンターテインメント分野の取引法務や訴訟対応等を中心に,多くの企業・個人に対し,幅広くリーガルサービスを提供している。また,刑事弁護人としての活動も引き続き精力的に行っている。『 99.9-刑事専門弁護士- シリーズ 』 など,多くの TBS ドラマにおいて,脚本作りや法廷シーンの演出など全体の監修を担当。

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