為末 大 世界陸上SNS

ースポーツの見方を変えるー視聴者も参加するスポーツコンテンツへ。

爲末大学 in モスクワ

第3回 女子100mでコートジボワールのアウルが、同種目でアフリカ勢初のメダルを獲得した。また男子800mでは、スレイマンが人口わずか90万人のジブチ共和国初のメダルを獲得した。今大会の特徴として、小国、これまで陸上では強豪国ではなかった国のメダル獲得が相次いでいる。特にエリアはカリブ海周辺、アフリカに集中している。

1983年、初めて世界陸上を開催した時は、ほとんどのメダルが大国に集中した。東ドイツが1位で、米国、ソ連、チェコと続いた。先進国だけにメダルが集中していた時代と違い、どうしてメダルが各国に散り始めたのだろうか。いくつかの理由があると思う。

1つは、強い選手が国籍を替えなくなったこと。昔はジャマイカの選手が米国人としてメダルを取るということが頻繁にあったけれど、最近はそれがなくなってきた。ジャマイカのメダル数が増えている理由にも、それは関係している。

また、各国の選手が簡単に強化拠点を動けるようになったことも大きい。カリブの国の多くがジャマイカに留学したり、米国に留学してトレーニングを積んだりしている。アフリカの選手が、日本の実業団に属しながらメダルを取った例も多い。国籍と拠点と人種がばらばらなのはよくある話だ。新興国と先進国の差は詰まりつつあり、まだ新興国にもなりきれていない国も少しずつ経済が発展してきていて、スポーツをする余裕が生まれつつある。

エチオピアには、マラソンランナーのゲブレシラシエが造った学校がある。そこで将来を夢見ている子供たちが育っている。またアフリカ各国で成功したアスリートが、母国で練習環境や教育環境を整えて、次世代の育成に関わっている例がたくさんある。

アスリートが出てくる国には条件がある。スポーツができるほど豊かであること。そして、スポーツができるほど平和であることだ。現在、世界陸上では100mで予備予選と言われるレースをしている。本来であれば標準記録をクリアしなければ出場できないところを、全ての国の選手にチャンスを与える目的で、100mに限り、国際陸連が新しく設置した。その予選を走った1人の選手がインタビューで「今はジャマイカに留学してトレーニングしている。いつか僕も金メダリストになるのが夢なんだ」と語ってくれた。フィギュアスケートのように維持費だけで数億かかるようなスポーツでなく、ただ靴1つあれば始められる陸上だからこそ、まだ新興国の国にもチャンスがある。

世界一を決める世界陸上、オリンピックですら、地球上の人口の半分も参加していない。まだまだ地球上には才能を持った人々がたくさんいる。本当の世界一を決めるためには、結局のところ貧困の撲滅、そして世界平和の実現が不可欠なように思う。(為末大)

第1回 「爲末大学 in モスクワ」第2回 「爲末大学 in モスクワ」第3回 「爲末大学 in モスクワ」

為末 大 世界陸上SNS トップへ戻る