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爲末大学 in モスクワ

第1回 世界陸上とモスクワは、実は因縁が深い。1980年(昭55)年のモスクワ五輪、ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻に異議を唱えるため、日本も含めた、いわゆる西側諸国がボイコットした。政治的な判断では正しかったのかもしれないけれど、結果として4年間努力してきて、出場の機会を奪われ、無念の思いをした選手たちをたくさん生むこととなった。

世界陸上は、そのモスクワ五輪での経験から「政治に影響されない世界大会を」という声が高まってできた大会だ。そして今回、日本が出場できなかったモスクワ五輪の会場となったルジニキスタジアムで大会が行われるというのも因縁めいたものを感じる。国の関係を越えて存在するものとして、学問、芸術、スポーツがあると言われていて、最近ではその3つの分野をどう平和利用するかという議論がなされている。

卓球の国際大会で倒れ込んだ中国選手を、身を挺してかばった日本選手がいた。それが中国側の国民感情に影響を与えたのを見た時に、その後、卓球協会の会長になった荻村伊智朗氏はスポーツ外交を直感的に思いついたという。のちにピンポン外交で、日中国交正常化に貢献するなど活躍した。政治にスポーツが振り回されることもあるが、逆にスポーツが各国間の感情的摩擦を緩和することもありえる。

今回の世界陸上の特徴としては、メダルを獲得できる可能性がある選手たちの国が一気に広がったことだろう。大国でしか強化の体制が取れず、メダルが集中していた時代から、人口が100万人に満たないような国からもメダリストが生まれるようになった。スポーツをするためには、ある程度の豊かさと平和な環境が必要だけれど、そうなりつつある国が少しずつ増えているのだと思う。

世界中の国でスポーツが出来る環境を。そう求めることは結果として各国間の経済格差の是正、そして紛争解決につながる。私はスポーツにできる最大の社会貢献は平和の構築だと考えていて、世界大会やオリンピックには、大会が発展することで世界平和が成されていくような役割を期待している。

とにもかくにも世界陸上がいよいよ開幕する。ある意味ではオリンピック以上に平和の祭典である世界陸上で、新たな国の台頭にも注目してみてみたい。(為末大)

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