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2019年10月27日「イスチグアラスト・タランパジャ自然公園群」

奇岩の大地と2億年前の生き物

今回ご紹介するのは、アルゼンチン北西部にある自然遺産「イスチグアラスト・タランパジャ自然公園群」です。白と赤の大地に現れた、さまざまな不思議なかたちをした岩々。そして、そこから発掘された貴重な化石の数々。この世界遺産を取材してきた小澤ディレクターに話を聞きました。

白い大地から発見された最古の恐竜の化石

「イスチグアラスト・タランパジャ自然公園群」が世界遺産へ登録されたのは、さまざまな生物の貴重な化石がここで発見されたためです。その化石がなぜ貴重なのか、どうしてこの土地で発見されたのか、紐解いていきます。

──今回の世界遺産「イスチグアラスト・タランパジャ自然公園群」はどのような世界遺産なのでしょうか?

小澤ディレクター(以下、小澤):アルゼンチン北西部にある、イスチグアラスト州立公園とタランパジャ国立公園という隣り合う2つの自然公園を合わせた自然遺産です。ここは、現在は荒涼とした土地なのですが、2億年以上前である三畳紀後期の地層が露出していて、そこから多数の貴重な化石が発掘されているのです。

「月の谷」とも呼ばれ、地球とは思えないような景色。世界的にも珍しい三畳紀後期の地層が露出し、貴重な恐竜の化石が発見されたのです。

──具体的には、どのような化石が発掘されているのでしょうか。

小澤:三畳紀後期に生きていたさまざまな動物や植物の化石が見つかっているのですが、例えば、今回番組で取り上げる「地球上で最古の恐竜」である「エオラプトル」の化石は、最も貴重なものの1つです。

「地球上で最も古い恐竜」である「エオラプトル」の完全骨格化石。

──エオラプトルとは、どんな恐竜なのでしょうか?

小澤:体長は約1メートルの、爬虫類から恐竜に進化した最初期の恐竜です。恐竜というと、ティラノサウルスやトリケラトプスのような大型のものを思い浮かべるかもしれませんが、初期の恐竜は比較的小型だったのです。エオラプトルの全身骨格が1991年に、イスチグアラスト州立公園で発見されました。この時代の恐竜の化石は世界でも他に見つかっておらず、恐竜の進化を知る上で、非常に重要な発見でした。今回の取材では、このエオラプトルの全身骨格化石を発見した古生物学者のリカルド・マルティネス博士の全面的に協力を得て、通常は撮影できない場所に入ったり、そうした貴重な化石を撮影することができました。エオラプトルの全身骨格化石の実物や、マルティネス博士が実際に発掘している現場も映像に収めています。

エオラプトルの全身骨格化石を発見した古生物学者のリカルド・マルティネス博士。今回の取材は、博士の全面的に協力を得て行われました。

──なぜ、イスチグアラスト・タランパジャ自然公園群では、貴重な化石が発見されるのでしょうか?

小澤:ここでは三畳紀後期の地層が地表に出ているからです。衛星写真を見ると白と赤の土地に分かれていて、赤はタランパジャ国立公園なんですが、化石が多く発掘されているのは白のイスチグアラスト州立公園なんです。色の違いは、地層の違いで、白いのはかつて川や湖だった土地で、柔らかい地層です。そのため、雨や風によって削られて、埋まっていた化石が露出するため、見つかりやすいのです。

──かつての地形や地上に露出している地層などの条件が整ったため、貴重な化石が発見されているということですね。

小澤:そうなんです。また地層の固さの違いでイスチグアラスト州立公園では、実に奇妙な岩の光景が見られ、それも番組の見どころです。そのかたちから「スブマリーノ(潜水艦)」「エル・オンゴ(きのこ)」と呼ばれる、上のほうが大きくなっている不思議な岩の数々をご紹介します。

イスチグアラスト州立公園にある奇岩。ドローンによる空撮で、その絶妙なバランスの様子を映像に収めました。

──地層と奇岩にはどういう関連性があるのでしょうか?

小澤:奇岩の上の部分、エル・オンゴでいうと「きのこの傘」のところは固い岩のため、侵食が少なく、一方その下の柔らかな層の部分は風によって削られてくびれたため、このような絶妙なバランスを取った岩になったのです。

──化石の発見しやすさと奇岩の成り立ちが、同じ地層がもとになっているのは面白いですね。

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