特集

ポーランド、クラクフ第41回世界遺産委員会リポート

7月6日(木) クラフク世界遺産委員会リポート 第五回

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危機遺産となったウィーン歴史地区

開幕から五日目を迎えたポーランド、クラクフでの世界遺産委員会。

今日も、すでに世界遺産に登録されているものの保全状況について審議が行われました。状況が悪ければ、「危機にある世界遺産のリスト」に登録され「危機遺産」となることもあります。

審議が始まって早々、ビックリしたのはウィーンが危機遺産になってしまったこと。
オーストリアの首都でもあるこの都市にはバロック様式の宮殿や教会が多く、「ウィーン歴史地区」として世界遺産に登録されています。

そのウィーンの中心部で、高層建築による再開発プロジェクトが進んでおり、それによって世界遺産の景観が損なわれると判断されたのです。プロジェクトは大規模なもので、駅、ホテル、ウィーン・コンツェルトハウス、アイススケートクラブなどの高層建築が計画されています。実は、以前から世界遺産委員会は、「建物の高さをもっと低くする」などの改善策を求めてきていたのですが、ウィーン側がそれに応えなかったので、ついに「危機遺産入り」という伝家の宝刀を抜いた訳です。

オーストリア代表団は、すぐに「この危機遺産入りには不満である」とスピーチしました。

都市の開発と世界遺産の保全の両立というのは大きな問題で、かつてドイツの世界遺産だった都市ドレスデンが、世界遺産委員会の勧告に反して新たな橋の建設を強行し、世界遺産の取り消しになった例があります。ウィーンの今後がどうなるか、注目です。

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ウィーンについて審議する
世界遺産委員会

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危機遺産入りに不満を示した
オーストリア代表団

ウィーンの他に、ICOMOS(国際記念物遺跡会議、文化遺産について審議前に専門家としての評価を出す組織)の事前評価で「危機遺産に登録する」となっていたのが、二つありました。

ひとつが2015年に大地震に襲われたネパールの「カトマンズ盆地」。懸命の復旧をつづけているということで、今回は危機遺産への登録はされませんでした。

もうひとつがパキスタンの「ラホール城とシャーラマール庭園」。こちらは庭園の近くに地下鉄が通るということで、その影響が危惧されていたのですが、
「パキスタン政府が調整を続けているのでもう少し見守ろう」
という意見が多く、今回は危機遺産になりませんでした。

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2015年の大地震後のカトマンズ

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パキスタンの世界遺産
ラホール城とシャーラマール庭園

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委員会で提示された
シャーラマール庭園と地下鉄の距離

昨日と今日の審議で、「危機遺産から脱した」のが2件、新たに「危機遺産入りした」のが1件となりました。
いよいよ明日から、日本の「沖ノ島」を含む、新しい世界遺産についての審議が始まります。

プロデューサー 堤