特集

ポーランド、クラクフ第41回世界遺産委員会リポート

7月5日（水）　クラフク世界遺産委員会リポート　第四回

破壊される前のパルミラ遺跡（シリア）

ポーランド、クラクフでの世界遺産委員会も四日目を迎えました。午前中は、昨日につづいて「危機にある世界遺産リスト」に登録されているもの、通称「危機遺産」について、リストに載せたままにするのか、危機遺産から外すのかについて審議。IS（過激派組織イスラム国）に破壊されたパルミラ遺跡など、シリアのすべての世界遺産が引き続き、危機遺産のままとなりました。

午後になって議題のテーマが変わり、危機遺産ではない世界遺産の保全状況について審議が始まりました。もちろん状況が非常に悪ければ「危機遺産入り」も検討されます。

この日、最も注目されたのが開催国ポーランドとベラルーシにまたがる自然遺産「ビャウォヴィエジャの森」。「ヨーロッパ最後の原生林」ともいわれ、絶滅が危惧されるヨーロッパバイソンの貴重な生息地でもあります。その森の木々がヤツバキクイムシという甲虫に食い荒らされ、次々と枯れてしまっていたのです。

「ヨーロッパ最後の原生林」
ビャウォヴィエジャの森

ヨーロッパバイソンの生息地

被害拡大を防ぐため、ポーランド政府は昨年、世界遺産エリアの周辺18万平方メートルの森林を伐採すると決めたのですが、この対策への賛否が真っ二つに分かれました。

その対立は激しく、世界遺産委員会の会場の外でも、伐採賛成派と反対派、それぞれのデモ隊が対峙し、互いの主張を叫びあうという異常な事態に。

世界遺産委員会の会場を取り囲むデモ隊

伐採に反対するデモ隊

伐採に賛成するデモ隊

IUCN（国際自然保護連合＝自然遺産の事前評価をする専門家組織）のビャウォヴィエジャに対する事前の評価は、「状況によっては、来年の世界遺産委員会での危機遺産入りもありうる」というものでした。

ビャウォヴィエジャの森について
審議中の委員会

世界遺産委員会の審議でも、委員国各国の意見が対立。

「伐採の効果について、正確な評価がなされていないのでは」
「木を虫が食べるのも、自然の営みではないのか」

など批判的な意見が多い中、当事者であるポーランド代表団は、
「伐採は積極的な保護であり、いま、それが必要なのだ」
と反論。ウズベキスタンなども「『来年、危機遺産入りもありうる』という評価は厳しすぎる」と、取り消しを求めました。

一方、ポルトガルなどは「取り消す必要はない」と主張。激しい議論は1時間近くにも及びました。

「こりゃまとまらないかも･･･」
と、こちらが危惧し始めたところ、ポルトガルが「来年ではなく、再来年の世界遺産委員会での危機遺産入りもありうる」というものに修正した評価を提案。原案よりも、さらにもう1年の猶予期間を与えるというアイデアで一転、全会一致でまとまりました。

喜ぶ伐採反対派のNGO

会議場では、伐採に反対するNGOなども傍聴していたのですが、「危機遺産入りもありうる」という部分が残った瞬間、みな立ち上がって大喜び。

この日は他にも多くの世界遺産の保全状況について審議されましたが、危機遺産になるものはありませんでした。

それにしても、意見が対立しても互いに妥協点を見出していく過程は、まるで「議論の技」を見ているようで、国際会議ならではと感じ入った次第でした。

プロデューサー　堤

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