特集

ポーランド、クラクフ第41回世界遺産委員会リポート

7月7日(金) クラフク世界遺産委員会リポート 第六回

開幕から六日目のポーランド、クラクフでの世界遺産委員会。いよいよ、新しい世界遺産を決める審議がスタートしました。

が、最初から会議は大荒れとなります。パレスチナ自治政府が、エルサレムの南にある町、ヘブロンを危機遺産として世界遺産にしたいと緊急の申請をしたのです。ヘブロンはユダヤ教にとっても、またキリスト教、イスラム教にとっても聖地であり、パレスチナ自治区の中でも最もイスラエルとの対立が激しく、パレスチナ人とユダヤ人入植者との衝突がつづく町です。パレスチナ側は、こうした対立・衝突が絶えない状況では、この古都の調査・保全ができないと「危機遺産入り」を求めてきました。

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ヘブロンの審議をする
世界遺産委員会

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パレスチナ自治区の町・ヘブロン
© Firas AL_Hashlamoun

世界遺産にするべきかどうかの事前評価をするICOMOS(国際記念物遺跡会議)は、緊急なので調査もしていないとして、評価を保留。それに対し、パレスチナに近いレバノンが、「危機遺産として世界遺産に登録するべき」と動議を出し、ポーランドなどが「これは話し合っても結論が出ない案件なので、秘密投票で決めよう」と提案。結局、どこの国が賛成したか反対したか分からない方式の投票で、可否を決めることとなりました。

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ヘブロンの世界遺産登録を
提案したレバノン代表団

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スクリーンで投票用紙の説明

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世界遺産委員会では珍しい
投票箱の登場

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議長の前に立ち、
抗議するイスラエル代表

世界遺産委員会は通常、みんなが納得するまで話し合って決めるので、このような投票になるのは珍しいことです(過去にもありましたが、それもパレスチナの案件でした)。

これに対し、イスラエルの代表が壇上に上がり、議長に激しく抗議。これもまた、世界遺産委員会では見たことのない光景です。

投票の結果は、賛成12、反対3、棄権6。有効投票の三分の二以上が賛成したため、ヘブロンの世界遺産(同時に危機遺産としての)登録が決まりました。登録名は「ヘブロン/アル=ハリール旧市街」(ヘブロンは町のヘブライ語名。アル=ハリールはアラビア語名)。

パレスチナ自治政府の代表団や、レバノンなどそれを支持する国は大喜び。
が、「これは世界遺産の政治的利用だ」と批判する国も多々ありました。

そしてイスラエルの代表は、この結果を激しく非難するスピーチをし、そのままカバンを持って会議場を退席してしまいました。

2011年にパレスチナがユネスコと世界遺産条約に加盟して以来、今回が三回目の世界遺産登録ですが、毎回、このような事態になっています。

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ヘブロンの世界遺産登録が決まり
喜ぶパレスチナ代表団

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抗議のスピーチをするイスラエル代表

その後、審議は粛々として進み、この日はヘブロンの他に、以下の3つの世界遺産が新たに決まりました。

まず中国の自然遺産「青海可可西里」、チベット高原にある広大な自然保護区です。
モンゴルとロシアが共同で申請した「ダウリアの景観群」、これも自然遺産。
アルゼンチンの「ロス・アレスセス国立公園」、これもパタゴニア地方に広がる自然保護区です。

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新規登録 青海可可西里
(中国)
© Peking University

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新規登録 ダウリアの景観群
(モンゴル、ロシア)
© O.Kirilyuk

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新規登録 ロス・アレスセス国立公園
(アルゼンチン)
© Ricardo Villalba

また以下の2つが、拡張登録となりました。

「ニジェールのW国立公園」を拡大した「W-アルリ-ペンジャリの公園群」(ベナン、ブルキナファソ)。W国立公園はニジェール、ベナン、ブルキナファソの3カ国にまたがる自然保護区で、ベナンとブルキナファソ部分を登録したもので、両国にとっては初めての自然遺産です。

もうひとつが「カルパティアとその他のヨーロッパ地域のブナ原生林群」。これは「カルパティア山脈のブナ原生林とドイツの古代ブナ林」を拡張したもので、ヨーロッパ12カ国にまたがる自然遺産となりました。

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拡張登録 W-アルリ-ペンジャリの公園群
(ベナン、ブルキナファソ)
© Salifou Mahamadou

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拡張登録 カルパティアと
その他のヨーロッパ地域のブナ原生林群
(アルバニア、オーストリア、クロアチア、スペイン、ウクライナ、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ベルギー、ドイツ、イタリア、ルーマニア)
© Salifou Mahamadou

明日は、日本の「沖ノ島」を含む、文化遺産の審議が行われる予定です。

プロデューサー 堤