特集

放送20年スペシャル 〜あの世界遺産は今

映像が語る 世界遺産20年の変化

人が変えた世界遺産

世界遺産の中でも「文化遺産」は、人の営みや歴史を記録している貴重な宝です。
それが内戦や開発で失われたり、逆に地元の人々の努力でよみがえることもあります。
後編は、人の手で変わりゆく世界遺産を紹介します。

パルミラ遺跡

(シリア/文化遺産)

放送年:1997年/2003年/2011年

爆破で失われた遺跡

2000年前、シルクロードの中継地として繁栄したシリアのパルミラ。1997年、2003年、2011年と過去3度放送していますが、内戦の影響で現在では撮影できない状況が続いています。また、過激派組織「イスラム国」の占拠によって、パルミラは甚大な被害を受けました。中心に建てられたベール神殿や、入り口に聳える凱旋門など、重要な建造物が爆破され、二度と見ることができなくなったのです。番組がかつて記録した映像は、貴重な資料となりました。

パルミラ遺跡の中心的存在であったベール神殿。過激派組織「イスラム国」による爆破で、永遠に失われてしまいました。

古都京都の文化財

(日本/文化遺産)

放送年:1998年/2001年/2003年/2004年/2009年

平等院鳳凰堂によみがえった平安の赤

極楽浄土の世界をこの世に再現した平等院鳳凰堂。今回訪ねると、これまで取材してきた佇まいとは大きく異なっていました。2014年に平成の修理を終え、平安時代の創建当初の華やかな赤色がよみがえったのです。実は、修理の前の調査で見つかった瓦に“平安の赤のヒミツ”がありました。平安時代の瓦に奇跡的に残っていた顔料を分析し、1000年前の色を突き止めたのです。

平成の大修理を終え、平等院鳳凰堂は、創建当時の赤い姿に復元されました。
(修復前の画像は2002年撮影)

アテネのアクロポリス

(ギリシア/文化遺産)

放送年:1996年/2002年

修復を全てやり直して古代の姿に!

古代ギリシアの最高傑作で、西洋建築の原点といわれるパルテノン神殿は、40年間も修復が続けられています。実は、20世紀初めに行われた修復をすべてやり直しているのです。かつての修復は、欠けた大理石をセメントで補修し、鉄のクサビで柱や梁をつないでいました。しかしセメントは劣化し、鉄は錆びて膨張して大理石にヒビ割れを起こしていました。最初に取材した1996年、まだセメントが残っていた柱は、今回訪ねると白いまだら模様に変化していました。白い部分は、欠けた部分に合わせて削りだした新しい大理石でした。パルテノン神殿は、建設された紀元前5世紀の姿を少しずつ取り戻していました。

40年間も修理が続くアクロポリスのパルテノン神殿。近づくと、立体パズルのように組み込まれた修理個所が分かります。

アントニ・ガウディの作品群

(スペイン/文化遺産)

放送年:1998年/2007年/2015年

サグラダ・ファミリア 18年の撮影記録

ガウディの作品群からは、今なお建築中のサグラダ・ファミリアを紹介します。完成模型がスペイン内戦で破壊され進まなかった時期もあった建築作業ですが、現在は着々と進行中です。過去に取材した1998年と2007年、そして2015年の映像を比較して、サグラダ・ファミリアの変貌を3段階でお見せします。最大の変化は、ミサを行う大聖堂が完成したことです。完成時には18本の独特のデザインの塔が立ち並ぶというサグラダ・ファミリア。その中央部のイエスの塔も着工され、今まさに天に向かって伸び始めようとしていました。ガウディの没後100年に当たる2026年の完成に向けて、サグラダ・ファミリアの建設はいよいよ最終段階に入っていました。

建築が進むサグラダ・ファミリア。最初に取材した1998年からどのように変化していったのか、番組でご覧いただきます。

完成した大聖堂の中は、ステンドグラスを通して柔らかな光が降り注ぎ、言葉にできないほどの美しさです。

ドレスデンのエルベ川流域

(ドイツ)

放送年:2005年

取り消された世界遺産

番組が始まったときには469カ所だった世界遺産。それが現在では1031カ所と2倍以上に増えました。しかし、中には世界遺産から抹消された事例も……。その1つが、エルベ川のほとりにあるドイツのドレスデンです。理由は、世界遺産登録後に近代的な橋を建設したことで、エルベ川沿いの景観が壊されたことでした。景観の美しさを守るのか、橋を建設することで生活の利便性を取るのか──この二者択一の住民投票の末、地元の人々は橋を造ることを選んだのです。

エルベ川のほとりの街、ドレスデン。自然と歴史が溶け合う美しい景観が評価され、2004年に世界遺産に登録されました。

渋滞緩和のために建造された新しい橋。この橋が原因で世界遺産から抹消されることになりましたが、地元の人々には必要なものでした。

キンデルダイクの風車群

(オランダ/文化遺産)

放送年:1998年/2008年

18年前に取材した風車に住む家族は今

「オランダの土地は、オランダ人が作った」と言われます。それは、湿地を干拓して国土を広げてきた歴史に由来します。オランダでは、低地の水を排水するための装置が風車でした。それぞれの風車には管理人である風車守りがいて、なんと風車の中で暮らしています。そんな風車守りのひとり、コックさんに出会ったのは18年前。妻と4人の子供の6人家族でした。今回再び訪ねると、コックさんには2人の孫ができおじいちゃんになっていました。54歳になった彼は、今も現役の風車守り。風車を維持するためには羽によじ登って帆を張ったりと、大変な苦労もありますが、「いずれは子供や孫に継いでもらいたい」という夢を語ってくれました。

18年前にも取材した風車守りのコックさん。今では孫がいるおじいちゃんになっていました。