特集

第38回世界遺産委員会報告

6月15日より、第38回世界遺産委員会がカタールのドーハで行われています。その模様を世界遺産のスタッフが現地からレポートしていきます。 レポートは到着次第、特集ページにアップしていきますのでお楽しみに!

委員会報告 7
6月20日(金)

世界遺産委員会6日目の報告です。この日の午後から、いよいよ世界遺産の新規登録の審議が始まりました。
まず最初に、イスラエルの占領下にあるパレスチナの「オリーブとブドウの地 エルサレムの南部バティールの文化的景観」が、世界遺産に登録されました。

オリーブとブドウの地 エルサレムの南部バティールの文化的景観
Palestine: Land of Olives and Vines − Cultural Landscape of Southern Jerusalem, Battir © Centre for Cultural Heritage Preservation / Wisam Oweineh | Image Source: Centre for Cultural Heritage Preservation
喜ぶパレスチナ
喜ぶパレスチナ
取材を受けるパレスチナ代表
取材を受けるパレスチナ代表

パレスチナ人の村バティールは、古代ローマ時代に作られたとされる段々畑や灌漑システムが残っています。
パレスチナの原風景が見られるこの地に、イスラエルが建設している分離壁の拡張計画が持ち上がっており、パレスチナは早期の世界遺産登録により保護しようとしていました。
事前評価では、不登録でしたが、委員会では一転、登録評価となりました。と同時に、紛争や災害などの影響で保護が必要な「危機にさらされている遺産リスト」にも登録されました。

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取材を受けるパレスチナ代表
議議長H.E. Sheikha Al Mayassa Bint Hamad Bin Khalifa Al-Thani
シーカ・アル・マサヤ・ビント・ハマド・ビン・カリファ・アルサーニさん

決議に際し、ホスト国カタールの議長は「イスラエルの占領下に、パレスチナのユネスコ委員の調査が入ることができる日を切望します」と中立の立場を超えた異例の発言をしました。

その女性議長は、シーカ・アル・マサヤ・ビント・ハマド・ビン・カリファ・アルサーニさん、王族出身の31歳(現在、カタール美術博物館機構議長)。米国の経済誌Forbesの「世界のパワフルウーマン100人」に選ばれたこともある人物です。
それもそのはず、2011年、セザンヌの絵画「カード遊びをする人々」を、美術史上最高価格の2億5000万ドル(約250億円)で落札し、その後も巨額の資金を投じて世界の有名な美術品を収集、ドーハにさまざまな異なる美術館や博物館を建設中なのです。

ちなみに王族である彼女の父はハマド前・首長。展示品の運営・博物館の運営費用はカタール政府によるものです。

バストショット
雑誌接写

「父は、平和の為に我々は、まずお互いの文化を尊重する必要があると言います。文化芸術はカタール国家の大切なアイデンティティとなるはずです」

アル・マサヤさんは、ドーハを中東地域の文化芸術のハブにしたいと考えているそうです。美しさと知性を兼ね備え、お金もあり行動力もある…中東における今後の活躍が楽しみです。

※世界遺産の登録審議は19時過ぎまで行われましたが、3件目の案件の途中で終了しました。

プロデューサー 尾賀達朗