特集

垂直の断崖を最後の住処とした動物たち

─たいへん貴重な種が残されている場所なんですね。


シミエン国立公園

小澤:取材の際に米国のミシガン大学の研究チームが来ていて、ゲラダヒヒの調査に同行させてもらいました。研究を進めるうちに、ゲラダヒヒはコミュニケーションの達人であることがわかってきました。このヒヒたちはよくケンカをします。ただし小競り合いで、大ケガになるようなことはほとんどありません。それは、彼らが巧みにコミュニケーションを取ることで、互いに致命的なケガを負わせるような争いを避けているのです。



―ヒヒヒたちは具体的にどのような方法でコミュニケーションを取っているのですか?



小澤:例えば、相手に対して警戒しているときには額にまゆ毛のような白い模様を出して威嚇したり、より強い警戒を示すときには上唇を裏返しにして巨大なキバをむき出しにしたりします。さらには鳴き声と態度で相手に謝ったりと、30種類以上の言葉を持っていると言われています。こうして大きな争いになる前に、争いを回避しているのです。



―まるで人間社会のようなやり取りですね。



小澤:100頭以上の集団の中で一瞬のコミュニケーションの場面を撮影するのは、実はたいへんでした。今回は移動も長かったため12日間のロケで、シミエンには8日間滞在しました。ゲラダヒヒの撮影にはそのうち4日間を使っています。ヒヒを見つめて決定的瞬間を待ち続けた4日間でしたね。