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夏のベルギー運河の旅

8月18日の放送では、ベルギー南部を走る中央運河の一部が登録された文化遺産「中央運河の水力式リフト」を紹介します。フランスとドイツなどを結ぶ重要な交通網である、この運河について、担当した江夏ディレクターに話を聞きました。

―今回の世界遺産は、ベルギーの中央運河ということですが、具体的にはどの部分が指定されているのでしょうか?

中央運河の水力式リフト

江夏ディレクター(以下、江夏):開設当時の中央運河の長さは21kmくらいあるのですが、世界遺産に登録されているのは、そのうちの約7kmほどの部分です。その間に設けられた4機のリフトと、様々な形状の橋などを含んだ周辺地域になります。

―世界遺産に登録されている運河は他にもいくつかあると思いますが、この中央運河の特徴は何でしょうか?

江夏:何と言っても、この短い区間に設けられた4機のリフトです。建設時の姿のまま、今も現役で動いている運河のリフトはここだけと聞いています。実際、世界遺産に登録された当時は、まだ貨物船が行き交っていたのです。

―船舶のリフトというのは日本人にはなじみが薄いですが、どういう目的で作られたものでしょうか?

江夏:運河を航行する貨物船のために建設されたもので、山間など高低差のあるところに建設された運河で利用されます。モンスとルヴィエールを結ぶ中央運河には、ベルギー運河の最高到達地点があり、世界遺産に登録されている区間には67mもの高低差があります。通常、高低差がある運河では水門を使って徐々に高さを上げたり下げたりしていくのですが、距離が短く水門ではその差を埋めることが難しいため、リフトで船を上げ下げする必要があったのです。1つのリフトで16〜17メートルの高低差をカバーするので、4機のリフトが必要になりました。

―そこまでの工夫をしてでも運河を通す必要があったというわけですね。

中央運河の水力式リフト

江夏:ヨーロッパにおいて運河は、道路や線路と同様に、交通網のひとつとして定着しています。かつてこの辺りはベルギー有数の炭鉱地帯でした。採掘された石炭を運搬するために中央運河が造られたのです。今でも炭鉱跡が残されており、こちらも「ワロン地方の主要な鉱山遺跡群」として世界遺産に指定されています。荷物の運搬以外にも、いわゆるプレジャーボートで運河を通ってフランスに行ったりと、旅の交通手段として利用されています。