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観れば“お腹が減る!?”食にまつわる世界遺産

文明と食は二人三脚で発展したと実感した THE世界遺産ディレクター取材記

―今回は「ヒトと食」というテーマで世界遺産を紹介していくという、今までにない変わった趣向ですね。どうして「食べ物」を取り上げようと思ったのでしょうか?

文明と食は二人三脚で発展したと実感した THE世界遺産ディレクター取材記

飯塚ディレクター(以下:飯塚):毎日口にする「食べ物」をテーマにすることで、世界遺産を身近に感じてほしいと考えたからです。世界遺産というと、紀元前何世紀とか、何様式とか、遠くの話でとっつきにくいイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、「ピラミッドを作った労働者たちは、パンを食べて頑張っていた」というと、イメージがしやすいのではないでしょうか。

―確かに、いま食べているパンを古代エジプト人も口にしていたと聞くと、歴史がぐっと身近に感じられますね。実際に古代エジプトではどのようなパンが食べられていたのですか?

文明と食は二人三脚で発展したと実感した THE世界遺産ディレクター取材記

飯塚:当時既に、生地を発酵させてふくらませたパンが食べられていたようです。今回取り上げている世界遺産の一つが、エジプトの『古代都市テーベとその墓地遺跡』ですが、そのテーベにある貴族の墓の壁画に、小麦の栽培と収穫の様子が描かれています。エジプトやメソポタミアなどの文明は、川のほとりで小麦の栽培を始めたことから飛躍的に発展したと言われています。

―川と文明は小麦でつながっているのですね。いつごろから人間は小麦を食べるようになったのでしょうか?

飯塚:初めは、砕いて「おかゆ」のようにして食べていたと言われています。それがメソポタミア文明などで、薄いペラペラとしたパンに加工されるようになりました。トルコのアナトリア地域では、インドのナンによく似た薄いパンを、今でも食べています。取材の際に、そのパンを食べてみたのですが、小麦の香ばしさが感じられておいしかったです。アナトリアには、小麦の原生種が現在も自生しています。何万年も前からある原生種が、雑草のように草むらに生えていてとても驚きました。「パン小麦」などの祖先にあたる遺伝子を持つ麦もあり、ここから世界中に広がっていったようです。