特集
ビキニ環礁核実験場(マーシャル諸島)
移住をしたビキニの島民たちは、今どこに住んでいるのですか?

江夏:島々を転々とした後、ビキニから南に1000km離れたキリ島という孤島へ移住しました。お話を聞きましたが、皆さん70代後半から80代で、ご存命の方は少なくなっています。平和な生活を送っていたある日、突如土地を奪われた彼らの実体験の話が強く印象に残りましたね。ビキニの島民は核実験前に移住させられていたので直接被爆していませんが、隣のロンゲラップ環礁では水爆実験時に被爆したようです。キリ島は年中5m近い荒波が押し寄せるため、漁に出ることもままなりません。現在は輸入された食材や缶詰に頼ることが多いようで、昔ながらの生活は出来なくなっています。
現在、ビキニ環礁で何らかの回復活動は行われているのですか?

江夏:1990年代から、「クリーンアップ政策」という土壌改良計画を、政府と米エネルギー省が進めています。表層の土壌を40cm程取り除き、珊瑚の砂に入れ替えたり、農地にカリウムを混ぜていく作業です。ただ、島民たちが積極的に行動を起こさないこともあり、再移住計画などは進んでいません。取材で苦労した点でもありますが、やはり過去の経緯から、島民たちには「何を信じていいかわからない」という思いがあり、また世代が変わると戻りたがる人も少なくなっているようです。
最後に、番組の見所をお聞かせください。

江夏:負の世界遺産は、過去の過ちを忘れないという意味で位置づけられますが、実際に取材すると、残された遺構が当時の様子をつぶさに物語っていました。核実験場は世界中にありますが、ここは実験当時の様子が、そのままの形で残る際立った実例です。遺構の様子と、65年を経ていまだ消えない島民たちの無念、さらに沈んだ船の周囲に広がる珊瑚礁などの自然の回復力を、合わせて観ていただければと思います。