特集

新しい日本の世界遺産「平泉−浄土を表す建築・庭園」と「小笠原諸島」

平泉−浄土を表す建築・庭園

岩手県平泉町。この小さな町にある"浄土"が新たに文化遺産に登録されました。2つの寺院を中心に町全体に浄土の思想が込められている興味深いものです。この新たな世界遺産について、現地で取材を行ったIBC岩手放送の中村ディレクターにお話を聞きました。

「平泉−浄土を表す建築・庭園」(以下、平泉)のどういった点が世界遺産として評価されたのでしょうか?

中村:12世紀の東北には、平和を祈る黄金の理想郷が存在しました。当時の人たちが、根本は仏教に求めながらも、独自の視点と方法で"浄土"の世界を表わしたことが評価されました。平泉には「中尊寺(ちゅうそんじ)」と「毛越寺(もうつうじ)」という2つの代表的な寺院があり、今回は、その両寺院を中心とした番組となっています。

両寺院について具体的に聞かせてください。まずは中尊寺とはどんな寺院なのでしょうか?

平泉−浄土を表す建築・庭園

中村:中尊寺は「関山(かんざん)」という山全体を指します。平安時代に藤原清衡(ふじわらのきよひら)によって造営された寺院です。中でも有名なのが「金色堂(こんじきどう)」で、内装、外装ともに金箔が張り巡らされた豪華な造りとなっています。これは光に包まれた"浄土"の様子を黄金によって表現しているのです。金色堂は、1124年の建立当初はむき出しの状態で建っていたようです。杉木立の中に突然金色に輝くお堂が現れたら…と想像してみてください。それは感動的でしょうね。「覆堂(おおいどう)」という、金色堂を保護するためのお堂が建設されたのは、鎌倉時代になってからです。現在では新しい覆堂に加え、金色堂全体がガラスケースで覆われており、一般の人は中に入ることができません。しかし、今回は特別にカメラが入ることが許可されました。ハイビジョンで直に撮影した映像はとても貴重なものとなっています。

次に、もう1つの代表的な建築物である、毛越寺の概要と見どころを教えてください。

平泉−浄土を表す建築・庭園

中村:毛越寺は藤原清衡の息子、基衡(もとひら)が建立しました。広大な敷地のほとんどが庭園で、特に池は3000坪もの大きさです。建立当時は池の周りに建物があったのですが、すべて焼失してしまいました。この庭園は「浄土庭園」と呼ばれ、中尊寺の金色堂と同じく、"浄土"を表現しています。光り輝く金色堂に対して、一見地味な庭は、浄土とは関係ないように感じますが、当時あった伽藍と一体で表現していたのでしょうし、人々は、自然を模した浄土の中に自分がいる、という感覚を持ったのだと思います。毛越寺では、正月の20日に毛越寺で行われる二十日祭の映像も興味深いです。その中には、当時の香りを残す「延年の舞」という踊りがあります。時代が変わっても、連綿と受け継がれる中世の雰囲気を味わっていただけるはずです。

どちらも"浄土"を意識しているにも関わらずまったく違いますね。

中村:はい。現存する中尊寺と毛越寺では大きく様子が違いますが、どちらも"浄土"を表現しようとしていることは共通です。このことを少し意識して映像をご覧になると、それぞれの個性が鮮明になるのでより番組を楽しんでいただけるでしょう。