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THE世界遺産ディレクター座談会

Q:空撮の映像は世界遺産の見所の1つだと思いますが、それだけに撮影には苦労が多そうですね。

THE世界遺産ディレクター座談会

世良:
空撮の成否は、実はパイロットが重要な要素だったりします。シドニーのオペラハウスを撮影したときは、現地のパイロットが優秀だったのでいい撮影ができました。あとで聞いたら、映画などの撮影でも何度もヘリを操縦している人だったそうです。

小澤:
空撮と言えば、ニューヨークで自由の女神像を撮るためにチャーターしたヘリのパイロットが、ベトナム還りの退役軍人だったんです。ピシっとしたおじさんで、もう見た目から頼りになる感じがしました。ニューヨークは同時多発テロ以降、監視がすごく厳しくて、ヘリで飛んでいても、もう少し高度を上げろだとか、もう少し離れろとか、うるさいぐらい無線で指示が入るんです。次第にそのパイロットと無線の相手のやり取りがけんか腰になってきて、最後には事前に許可を取ってる、取ってないで言い争いになってきたんですよ。もちろんきちんと許可は取っていたんですけど。するとパイロットが、ヘリを操縦しながら携帯電話を取り出して、どこかに電話しているんです。誰にかけているのか聞いたら、管制官の上司に直接交渉したみたいでしばらくしたら「これでオッケーだ」って(笑)。そこからは比較的自由に飛べて撮影できました。本当に頼もしかったですね。

石渡:
僕の場合、まったく逆のことがありました。フィリピンのプエルト-プリンセサ地下河川国立公園での撮影だったんですけど、ヘリのパイロットがひと目見て経験が浅そうで全然信用できない感じ(笑)。さらにその助手の若い女の人が一緒にヘリに乗っていて、気がついたらその助手が操縦しているんです! こいつ絶対初心者だなって思ったとたんに、赤いランプが点灯して「エンジンが止まるかも」なんて言い出したんですよ。近くにあった小学校の校庭で、1メートルくらいの高さでホバリングしながら「いまエンジンを切ると二度とかからなくなるから、このままで降りろ」って(笑)。仕方ないので、機材を降ろして自分たちが降りたら、そのまま飛んで帰っちゃいました。

Q:ほかに取材で大変な目に遭ったということはありますか?

世良:
さっきお話したヴィエリチカ岩塩坑の一般の人が入れない地下では、有毒ガスが発生することがあるそうです。なので、ガス探知機を持って行っているんですが、実際に撮影していると探知機がピーピー鳴りだしてちょっと怖かったですね。結局、風向きが変わったから大丈夫ってことで撮影は続けられたんですけど、もしガスが発生したら機材は置き去りにしてとにかく逃げることって言われました。

THE世界遺産ディレクター座談会
愛場:
危険な目ではありませんが、大変な目にあったことはあります。オーストラリアのフレーザー島に行ったときのこと。そこは世界最大の砂の島として有名な場所です。ロケハンの時、砂丘に風が吹いて砂が空一面に異様なスケールで舞い上がる光景を目撃しました。ものすごい光景が、特定の場所で目撃できることを知ったので、ぜひ撮影したいと思いました。ところが実際の撮影では、なぜか、ずっと嵐つづき。9日間のロケ期間中、最初の1週間はずっと雨でした。せっかくの砂丘も美しさは見えず、台無しでした。最後の3日間だけ、なんとか晴れてくれて、なんとかなりましたが、自然遺産の場合は天気にすごく左右されるという事を痛感しました。取材では常に言えることですが、現場に行って予想と違う状況に陥っても、放送に耐えうるものを現場で拾ってこなければ、番組として成立しませんからね。

小澤:
僕はアメリカのイエローストーン国立公園でロケハンをしていたときに遭難しそうになりましたよ。現地のガイドがまだ二十歳ぐらいの若者だったんですが「俺はイエローストーンを知り尽くしている」と豪語するので任せていたら、いくら歩いても目的地に着かない。8時間くらい歩いて日が暮れてきて、これは遭難かな……と思ったら、実はなんてことはなくて、ガイドがコースを間違えていて舗装道路沿いの崖下をずっと歩いていただけだったんです。崖を上って無事に帰ることができたんですが、自然保護区だけにオオカミやグリズリーが出ると聞いていたので心細かったですね。

尾賀:
現地ではそうした多少のトラブルはつきものですよね。そのときはイライラしたり頭に来ても、後から振り返るといい思い出だったりします(笑)。